トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.39

デジタルは日本の救世主足り得るか?

コロナ禍以降、日本でも急速に進み始めたデジタル化。今やキャッシュレスオンリーの店舗もあり、テレワークが基本の企業も続々と増えています。こうした流れを受け、国土づくりの指針となる新たな国土形成計画の検討を進めており、今年7月に公表した中間とりまとめでは、東京一極集中の是正や地方から全国へのボトムアップの成長に向け、「デジタルの徹底活用」を挙げています。とはいえ、具体的にどう活用すれば良いのか、悩んでいる人も少なくないはず。そこで、一足早くさまざまな課題にデジタルを用いて取り組んでいる方たちにお話をうかがいました。

Angle B

前編

データ×前例にとらわれない発想で誰もが暮らしやすい街づくり

公開日:2022/11/15

高松市役所

四国の香川県高松市では「都市機能の充実は県全体のサービス向上にもつながる」との考えから、政府の「デジタル田園都市国家構想」、現在検討が進められている国土交通省の新たな「国土形成計画」などが推進するデジタル化をまちづくりに積極的に取り入れています。その中核を成すプロジェクトが「スマートシティたかまつ」。具体的な取組について、高松市役所のご担当者にお話をうかがいました。

<写真向かって左から>
中川 瑛(総務局 デジタル推進部長)
金川 邦広(総務局 デジタル推進部 デジタル戦略課長)
伊賀 大介(都市整備局 都市計画課主幹 兼 都市整備局 都市計画課 デジタル社会基盤整備室長)

「スマートシティたかまつ」について教えてください。

中川:デジタル技術を活用し、本市のさまざまな課題を解決するのが「スマートシティたかまつ」の目的です。市民全員がデジタル技術を活用でき、社会全体のDX(Digital Transformation)を進めることで、誰もが、どこからでもデジタル技術の利便性を享受できることを目指しています。
 その環境づくりのために、2017年に設置された情報政策課ICT推進室、現在のデジタル戦略課が中心となって、IoT共通プラットフォーム※を構築し、現在、さまざまなデータの収集、分析、利活用に取り組んでいます。さらに、産学民官が連携する「スマートシティたかまつ推進協議会」を設立し、データの適正かつ効果的な利活用を推進しています。
 ※ネットワークに接続された各種デバイス(IoT)のデータを収集、連携、利活用等する際に、土台として必要な基盤。

金川:この協議会は高松市と143の企業・団体会員で構成され(2022年9月末時点)、ミッションごとにワーキンググループを設けて、事業化に向け活動しています。具体的な取組としては、交通データ活用、防災IoT活用、デジタル化に必要な人材育成環境向上などです。また、市民が楽しみながら健康意識を高められるように、歩数、食事、体重などを記録すると地域共通ポイントを獲得できる健康アプリの開発も行いました。

特に注力されている分野はありますか。

中川:2022年に策定した「スマートシティたかまつ推進プラン2022-2024」では、「持続可能で魅力的なまちづくり」、「市民ニーズに応じた行政サービスの効率的な提供」、「多用な主体の出会いと協働を促進する仕組みづくり」、「誰もがデジタル社会の恩恵を享受できる環境整備」などに取り組んでいます。例えば、まちづくりの分野では、デジタル技術を活用して持続可能な公共交通ネットワークを再構築する「バタクス」の実証実験もスタートしています。

「バタクス」とはどういうものでしょうか。

伊賀:「バタクス」は、人口が少ない地域でも安価な移動手段を提供できるように、「タクシーとバスの中間的な新しい交通モード」を創出する取組です。2022年1月から、地元のタクシー会社と連携し、現在2種類の実証実験を行っています。ひとつは路線バスと同じルートを、バスではなく8人乗りのジャンボタクシーで走る定時定路線型。もうひとつは、一般的なタクシー車両によるデマンド型の区域運行を行うものです。後者を利用する場合は前日までの予約が必要で、乗車時間・場所が同じなら4名まで乗り合わせることが可能です。需要がある場合のみ走らせるわけですから、行政にとっては経費削減につながります。市民はエリア内であれば希望の場所、時間に乗車できますし、タクシー事業者も空いている車両を効率的に活用できる。三者それぞれにメリットが期待できます。

不採算路線に悩む他の地域にとっても、その実証実験の結果は参考になりそうです。

伊賀:配車、乗合ルートの作成、タクシー会社への配車指示業務などは、現在は民間事業者のクラウド型タクシー配車システムを利用していますが、将来的には予約アプリを開発予定です。さらに、本市のデータ連係基盤を活用した需要予測から、タクシー車両に余裕がある時間帯に稼働が高まるような変動制運賃の導入なども検討しています。デジタル技術の利活用で各地域の移動手段を維持し、住みやすいまちづくりを図っていきます。

中川:このほか、ICTの活用による業務改革、本市の持つ公共データのオープンデータ化、デジタルデバイド(情報格差)対策などにも取り組んでいます。2022年6月には「デジタル田園都市国家構想推進交付金」(TYPE3)の対象にも選ばれ、現在は次の2つの事業化を進めています。ひとつは、本市が保有する道路、河川、下水、農業、建築などの地図情報をオープンデータ化する「オープンデジタルマップ(高松版ベース・レジストリ)」。もうひとつは、購買等に関する情報を地域で共有・活用し、住民一人一人のニーズに合った行政支援や官民連携のサービスを提供する「家計DX(わたしのデジタル財布)」で、こちらは2022年10月からスマートフォンアプリを活用したデジタル商品券や、分野横断データ連携による地域ポイント付与の実証事業が始まっています。

高松市がDXに活用されているIoT共通プラットフォームについて教えてください。

中川:都市における膨大なデータを収集し、他の自治体や研究機関と連携させるIoT共通プラットフォームは「都市OS」とも呼ばれます。高松市では、現在の都市OSの世界標準といえる「FIWARE(ファイウェア)」を日本で初めて導入。2017年から利用し始め、防災分野や観光分野などで、関連する複数領域のデータを収集、分析するなど、課題解決に役立てています。

金川:都市OSの強みは各種データのハブとなり、それらを掛け合わせて新たなサービスを創出できる点です。現在、本市では水位・潮位の情報、雨量、河川の現在の状況などを地図上に一元化・可視化した防災情報を庁内や市民に提供しています。
 ただ、それ以外の分野では都市OSのハブ機能を十分に活かし切れていないのが現状です。スマートフォンのアプリを通じて画像や位置情報を適切に取得できる時代ですから、そうした地域情報も活用して、もっと身近で使いたくなるサービスを提供したいと考えています。

「使いたくなるサービス」創出のために、具体的に何か始めていらっしゃいますか。

伊賀:都市OSに、本市が持つデータだけでなく民間事業者のデータも連結することで、市民に提供するサービスを一層充実させることができます。そのため、民間事業者の関心が高いデータを都市OS上に公開することで彼らの積極的な利用を促し、民間事業者の各種データも都市OS上に公開してもらえるような施策を進めています。
 現在は、どのプラットフォーマーも重視している「移動」と「地図」を対象に、高松市でしか提供できない地域性のあるデータを安定供給できる仕組みを構築中です。今後、市内の交通事業者から移動情報が都市OS上にオープンデータ化されれば、本市の詳細な地図情報とクロスさせ、デジタルツイン※の中でリアルタイムな交通の需要予測と供給も可能になってきます。こうした利便性の高い市民サービスの実現を目指して、少しずつパーツを集めている状況です。
 ※現実世界でさまざまなデータを収集、それに基づいて仮想世界でそっくりに再現したもの。

現在、「スマートシティたかまつ」は順調に進展されているように思います。高松市ならではの理由があるのでしょうか。

伊賀:香川県は全国の中でもコンパクトな自治体で、県内人口の44%ほどが高松市に住んでいます。このため、移動や地図に関連した民間のデータを都市OSで活用するような場合も、ステークホルダーが限られ、合意形成が図りやすい面はあると思います。市内の移動についても、電車、バス、タクシーを運営する交通事業者1社と話がまとまれば、民間のデータがある程度カバーできます。これが大都市圏だと非常に多くの交通機関や関係者の合意が必要になるでしょう。

「スマートシティたかまつ」を進める上で留意されていることはありますか。

伊賀:市の課題をソリューション先行で捉えないことです。縦割り意識が残る行政側が「解決手段ありき」で設定した課題は、実際の企業や市民のニーズとずれる場合が多々あります。このため本市では、「スマートシティたかまつ」の実現に向け、多様な分野の職員が集まって、どのようなサービスが必要かを議論するグループ「高松DAPPY」を作りました。前出のバタクスや健康アプリのほか、防災分野における自然災害からの「逃げ遅れゼロ」を目指す取組などは、前例にとらわれないこのグループ活動で生まれたアイデアがベースとなっています。

(向かって左から)
いが・だいすけ 都市整備局 都市計画課主幹 兼 都市整備局 都市計画課 デジタル社会基盤整備室長
なかがわ・あき 総務局 デジタル推進部長
かながわ・くにひろ 総務局 デジタル推進部 デジタル戦略課長
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