トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.36

未来を守る、未来をつくる、メンテナンス

老朽化が進む社会インフラを限られたリソースで少しでも多く、長く維持していくため、重要性が増している「メンテナンス」。それは、現状維持のための「守り」だけではなく、安全・安心な未来を手にするための「攻め」の手段でもあります。体のメンテナンスが心の健やかさにつながるように、インフラメンテナンスの進歩の先には何があるのでしょう。先進事例を交えて考えます。

Angle A

前編

体も心の佇まいも健康に

公開日:2022/7/12

宅トレクリエイター

竹脇 まりな

構造物だけでなく、私たちの体も、歳を追うごとに手をかけてメンテナンスすることを心がけないと、思うようなパフォーマンスを発揮できなくなっていきます。人気CMやテレビのトレーニング番組に出演する、今、注目の「宅トレ」クリエイター・竹脇まりなさんに、現在に至るまでの自身のストーリーを振り返ってもらいながら、体をメンテナンスすることの効果や継続のコツなどについて聞きました。

いつ頃からフィットネスに興味を持たれたんですか?

 母が地元の秋田で、エアロビクスやジャズダンス、ヨガなどを教えるフィットネスインストラクターをずっとやっているので、私にとってフィットネスは幼い頃からとても身近なものでした。ただそれですぐに「私もやりたい!」と思ったわけではありません。母も私にヨガを教えてくれるとか、フィットネスのあれこれを一緒にするようなこともなかったので、私の中で長い間、フィットネスは“母の仕事”という位置付けだったように思います。
 私は大学卒業後に金融機関に勤めたのですが、「ずっとこのままこの仕事を続けていくのかな?本当は何がしたいんだろう」と考えるようになりました。6年間勤務して自分で出した答えが「母親みたいな生き方がしたい」だったんです。母はとても健康的で、内側から元気が湧いてくるような人。例えるなら太陽のように、自分の元気で周囲を明るく照らして、他の人まで元気にしてくれるような存在です。しかも内面がほがらかで健康的なだけでなく、フィットネスインストラクターなので、身体的な意味でも本当にいつまでも若々しく、ひき締まった体型でキレイですし、自分だけでなく他の人の体のメンテナンスのお手伝いもすることができる。そのすべてがとても素敵だな、私もやってみたいなと思うようになりました。

ご自身がフィットネスインストラクターとなって、どんな変化がありましたか?

 金融機関で働いていた時は本当にめちゃくちゃ忙しくて、ランチをゆっくり食べるような時間さえとれないことも多くありました。ただひたすらデスクワークをしてそんなに体を動かすこともないのに、仕事をするだけで疲れてしまって帰っても寝るだけの日々。有意義な自分の時間をつくることもできず、定期的にボディメンテナンスをすることもないような生活を送っていました。それに加えて知識もなかったので、ダイエットと称して、「これだけ食べていれば健康的に問題ないだろう」とサラダチキンや野菜だけを食べているような、偏った食事をしていたこともあります。だから会社を辞めて、フィットネスやヨガのインストラクターの資格を取得して正しい体の知識を得てからは、食事や体を動かすことの大切さを知り、健康的な生活を送ることができるようになりました。日中の集中力が上がりましたし、夜も良質な睡眠をとることができるようになりましたね。
 本当にたくさんの変化がありましたが、何より一番大きかったのは、体よりも心だったように思います。それまでの私は他人と自分を比較してばかり。「私は◯◯さんより仕事ができない」とか「彼女よりスタイルが悪い」などと思って気持ちが落ち込んだり、逆に「この人よりちゃんとデキているから、私は評価されて当然」とか「あの人より素敵なものを持っている」と思って自己満足したり。今振り返ると、とても心が不健康だったように思います。それがフィットネスに真剣に向き合うようになって、他人との比較で無駄に心がギスギスすることがなくなったのです。
 フィットネスをすると、人の体はそれぞれ異なっていて、体力も得意なものも違うことがわかります。だから自分と他人は比べるものじゃないんだと自然に理解することができました。フィットネス自体は、過去の自分を超えていくもの。以前に比べて、今の自分がどう変化しているかにフォーカスするものです。他人と自分を比べる横比較ではなく、自分という軸の中の変化を見る縦比較。だからフィットネスをするようになってからは、自分の心の佇まいがとても健康的になったと思います。「私は私でいいんだ」、「私は私のために頑張るんだ」と、自分のことを肯定できるようになりました。結果的に心が広くなって、どんな人にも優しくしようと思えるようになりましたし、しかも体のいろいろな数値まで良くなるというおまけまで付いてくる。フィットネスはいいことづくめなので、フィットネスをやらない理由はないなと思います。

フィットネスが心身ともに良い影響を与えてくれることはわかっていても、スポーツジムなどに行くことに対して腰が重くなってしまうのはどうしてでしょう。

 私も本来はとてもズボラな性格で、何事も継続できなくて、相当な面倒くさがりです。ダイエットも3日と続かなかったですし、運動も意気込んで「ランニングするぞ」とか「30分ウォーキングしよう」と思って始めても、すぐに怠惰な自分に負けて「今日はいいや」とやめてしまっていました。自分一人で運動するのは難しいからジムに行こうと思って入会して、最初は「週に3日は行かなくちゃ」とやる気に満ち溢れていても、着替えをバッグに詰めたり、シャワーをジムで浴びようか、それとも家に帰ってからにしようか、じゃあ化粧品を持っていくの?持っていかない?などと考えるだけで、ジムに行くのが面倒くさくなって、徐々に足が遠のいてしまったり。またジムに行ったら行ったで、先ほども言ったように他人と自分を比較しがちだったので、「彼女は素敵なウエアを着ているのに、私は部屋着みたい」とか、マシンの使い方がわからなくてもなかなかインストラクターに声をかけることができず、内気な自分に落ち込んだり。ジムに行くまでも、そして行ってからも越えなくてはいけないハードルがたくさんあるんですよね。こういうことって誰もが思い当たるところがあるんじゃないでしょうか。

体を動かすのが苦手な人や、意思が弱くてなかなか続けられない人も多くいると思います。竹脇さんは、どうしたらそれを乗り越えられると思いますか。

 「◯◯しなくちゃいけない」とか「こうあるべき」と思ってしまうと、それが自分で設定した目標だったとしても、どうしても「やらされてる感」につながってしまうんですね。体を健康にするために立てた目標なのに、逆に自分の首を締めてしまう。でもいろいろなことができないことに引け目を感じて、ポジティブな気持ちを失ってしまっては元も子もありません。なかなかフィットネスを継続することができないのは、「◯◯しなくちゃいけない」と思うハードルが高いからだと思います。だから、できるだけフィットネスをするまでの「◯◯しなくちゃ」というハードルを低く、さらにハードル自体の数も減らしてあげられれば、気軽に長くフィットネスを続けられるのではないかと考え、発信しているのが「宅トレ」なんです。

「宅トレ」は、竹脇さんが考案したものなんですか?

 そうではありません。以前から自宅で行うトレーニングは「宅トレ」とか「家トレ」と呼ばれて、フィットネスに関わっている方々には知られていたと思います。私は「宅トレ」しやすいフィットネスエクササイズを考案して、動画配信するクリエイターとして活動しています。「今までいろいろなフィットネスをしてきたけれど続かなかった」というような人でも続けられるように、また小さくて手のかかるお子様がいらっしゃる方や、忙しくてなかなか時間がつくれない人などでも気軽にできるように、ちょっとした隙間時間を使った「宅トレ」エクササイズを発信しています。
 「宅トレ」の良さはいろいろありますが、なんといっても行くための準備がいらない、他人の目が気にならない、自分の都合の良いタイミングに合わせてできる、そんな気楽さが真っ先に挙げられます。朝起きてすぐ、パジャマを着たままの寝起きにだってできますし、仕事の合間の息抜きにパッとやることだってできる。ジムに通う場合は、自分のやりたい種目のスケジュールが自分の都合に合わなくて、やきもきすることも多々ありますよね。でも「宅トレ」なら、無理なく自分の好きなタイミングでやりたい運動ができて、フィットネスをするためのあらゆるハードルが排除されているから、長続きできるんです。

竹脇さんが考案する「宅トレ」の特徴を教えてください。

 ゆるめの運動から激しく動きのあるものまでさまざまありますけれど、動画を見てすぐに、誰もが動画のような動きができるようにと考えています。そのために説明を最小限にして、シンプルかつリズムがあって、楽しくなるものをつくっているつもりです。あとは例えば、マンションに住んでいる方を想定したものであれば、家の中でも周囲に気兼ねなく動くことができるように、ドンドン床を叩いたりジャンプしたりするような運動はしないように気をつけたりもします。また音楽があると自然と体がのってくるので、動画には必ず音楽もつけますね。もし動画を見ながらではなく、自分の決めた運動をする場合も、何かしら気持ちが上がる音楽を流しながらやるとフィットネスが楽しく、また続けやすくなるんじゃないかなと思います。
 私は、健康を維持するために行うフィットネスに大事なのは、1回に行う運動量の多さよりも、コンスタントに長い期間続けることだと考えています。なので動画を見て、「こんなちょっとの運動量で効果があるのかな?」と感じることもあるかもしれませんが、継続して運動してもらえればきっと、「体調が前より良くなってるな」とか、「腕が上げやすくなった」とか、「体が締まってきた!」というような効果を感じていただけるのではないかなと思います。

たけわき・まりな 1989年秋田県生まれ。宅トレクリエイター。 “宅トレを当たり前の世界に” をミッションに夫のダーウィンと共に宅トレの魅力を広めるため、YouTubeや宅トレブランドMARINESSの運営をはじめ、様々な活動を行っている。 YouTubeチャンネルでは、自宅で楽しくできるフィットネスやダイエット料理動画を発信しており、2022年3月にチャンネル登録者数は300万人を突破した。
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