トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.32

可能性の宝庫!深海大国ニッポン

四方を海に囲まれた日本。日本の海(領海と排他的経済水域)の広さは世界で6番目で、そのほとんどが深海です。食卓を彩る海産物を生み出す生態系、産業の発展を支える原油などの資源にも深海が関わっています。普段私たちが見ることのない世界に何があるのか、その可能性を探ってみます。

Angle A

前編

深海は未知だからこそ想像が広がる

公開日:2021/12/17

声優

井澤 詩織

日本の海域には駿河湾をはじめとする深海があり、そこには多様な深海生物が生息しています。ユニークな造形をした深海生物たちは、生態が未知なこともあり、私たちの想像力を駆り立ててやみません。声優の井澤詩織さんも深海生物のファンのひとり。深海生物との出会い、魅力、そして楽しみ方などについてお聞きしました。

深海生物を好きになったきっかけは?

 子どもの頃から百科事典や図鑑を見るのが好きでした。特に惹かれたのが恐竜や妖怪など実際には見られないものたちです。もちろん深海生物もずっと好きでしたよ。だけど深海魚をめちゃくちゃ調べたい!と思ったきっかけは「ゴブリンシャーク」を知ったことでした。ちょっとグロテスクな深海ザメです。どこか凶悪な顔に見えてギョッとするビジュアルがいかにも深海魚!という感じがしていいんですよ。恐竜や妖怪っぽい感じがすごいんです。
 最初はビジュアルに惹かれたんですけど、「ゴブリンシャーク」が発見されるのは世界的にすごく珍しいことで、それなのに日本での出現率が最も高いという記事を読んだとき、一気にテンションが上がりました。自分が住んでいる日本の海にいるんだ!と知ったとき、深海はとても遠いのに親近感が湧いて色々と調べ始めました。
 なかでも深海魚がたくさん住んでいるのが静岡県沖の駿河湾です。世界的にも指折りの深い海で、可能性がいっぱい!日本には魚が約2,300種類いると言われていますが、そのうちの1,000種類が駿河湾にはいると聞いて、なんだかその壮大さにとても魅力を感じます。私の暮らす場所からそれほど遠くない所に深海というファンタジーがある。それが惹かれた大きな理由ですね。
 さらに深海生物のラインナップを見ていくと、ゴブリンシャーク以外にも魅力的な生き物がたくさんいる。それからずっと深海生物にはまっています。
 私は元々情報収集も好きで、中学生の時ぐらいからインターネットが急速に普及し始めて自分でいろいろなことを調べられるようになりました。深海魚についても手軽にネットで調べたし、もしネットが普及していなかったら、こんなにはまっていたかどうか分からないです。オタクに優しい時代でよかった!(笑)

【深海を泳ぐゴブリンシャーク(イメージ)】

※iStock

思い入れのある深海生物を挙げるとしたら何ですか?

 ビジュアル的にはゴブリンシャークのような深海ザメや歯が鋭い「フクロウナギ」が好きです。でも、ファンタジー的な要素のある深海魚にも惹かれます。「リュウグウノツカイ」は網に掛かると天変地異が起きるという言い伝えが昔からありますよね。私は妖怪が好きだとお話ししましたが、妖怪も民俗的な観点に魅力を感じます。それぞれの地域には、独自の風習や風土があり、そこから生まれた恐怖のかたちが妖怪をかたちづくっているという考え方。リュウグウノツカイの言い伝えにも、もしかしたら深い背景があるのかな?なんて。現実とファンタジーの狭間が好きなのかもしれません。
 シーラカンスも好きな深海魚です。とても寿命の長い魚で、太古の昔から生息する「古代魚」とも呼ばれます。そうそう、シーラカンスが絶滅しなかった理由は美味しくなかったかららしいです(笑)。体の周りが石油の匂いがして、食感も歯ブラシを噛んだような感触なんだとか。美味しくないから乱獲されなかったのか?食べられないようにその匂いを持つ体へと進化したのか?わからないけれど面白いですよね。
 頭が透明で中が透けて見える「デメギニス」も好きです。その他にも「なぜ、こんなかたちになったのだろう?」と思う深海魚がたくさんいます。そんな造形を生み出す自然の力は本当にすごいと思います。
 私は、昔から数学が苦手で、国語が得意でした。数学には答えがひとつしかなく、国語には答えに幅があったからです。深海魚は実際にいるのに生態が分かっていないから、想像の余地もあるし、研究の余地もある。自由に想像をめぐらせられるのも私が深海魚にはまった理由かもしれません。

ご自身の深海生物の楽しみ方を教えてください。

 夕方のニュース番組などでも意外と深海生物が捕獲されたという話題が取り上げられることが多いんです。今年に入ってからも「ヨコヅナイワシ」という新種が見つかったというニュースがありました。これまでは同じ分類では「セキトリイワシ」が一番大きかったのですが、それよりもはるかに大きな新種だったのでヨコヅナイワシと命名したと報道されていました。ヨコヅナイワシは、生息する水深1,200m付近では食物連鎖のトップにいるという研究結果も紹介されていました。日々、更新されていく情報を知ることはとても楽しいです。
 それと誰かに深海魚の知識を披露するのも楽しいですね。詳しい人がそれほど多いジャンルではないから、驚いてくれる時も多いです。深海魚の話をする時に大切にしているのは、まず、自分が楽しんでいることを素直に伝えることです。そして表現にもちょっとだけ工夫もします。例えば、「ニシオンデンザメ」という1年に1cmしか成長しないサメがいますが、5mの個体が発見されニュースになったことがあります。それを伝えるときに「5mっていう大きさもヤバイけれど、つまりは500年も生きているんだよ!」と力説しても、「ふーん」となってしまう。そこで、「織田信長が生きていたときからいるんだよ!」と言うと驚いてくれたりするわけです(笑)。ちょっとの具体性を加えるだけで、反応が全然変わりますよね!
 水族館も好きでよく行きます。駿河湾を望む「沼津港深海水族館」にも行ったことがありますし、シーラカンスの肉は臭くて食べられないという話もそこのスタッフの方から教えてもらいました。深海水族館でも標本や剥製が中心です。館長さんがいろいろと研究されていて、延命することはできるみたいですけど、完全な飼育は難しい。いつか深海の高い水圧を再現できる水槽が実現したらうれしいですね。基本的には水族館のような安全な場所から普段見られない深海の生物を見るのは楽しいと思います。水の中では絶対に会いたくないです!だってどう考えてもコワイです。
 日常生活ではなかなか深海魚について語り合える方と出会えないので、ぜひ、沼津港深海水族館の館長さんとお会いしてみたいです。それは私の夢のひとつですね。
※後編は12月21日(火)公開予定です。

【ファンの人たちと一緒に沼津港深海水族館に行けたらいいな】

いざわ・しおり 1987年2月1日生まれ、埼玉県出身。テレビアニメや劇場アニメを中心に、幅広い女性キャラクターの声を演じる。主な出演作に『ヘボット!』(ヘボット役)、『メイドインアビス』シリーズ(ナナチ役)、『鬼滅の刃』シリーズ(案内役・白髪役)など。配信動画番組「井澤詩織のしーちゃんねる」「井澤詩織・吉岡麻耶の#オタク欲求開放中!!」などにも出演中。趣味はイラスト、カメラ、マッサージなど多岐にわたる。
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