トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.31

ビジネスマン必携!?進化する白書

各省庁の取り組みや、その背景となる社会の実態などをとりまとめて発行している白書。変化の激しい時代の流れや、日本という国がどこに向かっているかを知る手がかりが凝縮されているのだ。質の高い情報を活用して新たな価値を想像することが求められているビジネスマンたちとって、白書はどんな利用価値があるのか。そのヒントを探る。

Angle B

前編

手にとりやすく、わかりやすい白書を

公開日:2021/8/10

防衛省

企画評価課白書作成事務室

防衛省では2021年7月、『令和3年版防衛白書』を刊行した。日本を取り巻く安全保障環境が大きく変化しつつある中で、防衛省や自衛隊の政策や活動について関心を持つ人が増えてきており、『防衛白書』の役割も高まっている。令和3年版ではこれまで自衛隊の隊員や装備品が登場することが多かった表紙を騎馬武者の墨絵としたことでも注目を集め、若い世代が手にとりやすい白書として期待されている。そこで令和3年版の『防衛白書』の編纂を担当した4名に、『防衛白書』の概要や特徴、編集上の工夫について話を聞いた。

防衛省大臣官房企画評価課白書作成事務室
(*取材当時)
室  長 柳田 夏実
1等陸佐 林 豊
2等空佐 秋葉 和明
2等海佐 清 香織

『防衛白書』の刊行目的を教えてください。

(柳田) 我が国の防衛の現状や課題、取組について、より多くの方に知っていただくことを目的に毎年刊行しています。1970年に創刊し、昨年度刊行した令和2年版でちょうど50年を迎えました。

【令和3年版防衛白書より】

※騎馬武者の墨絵を採用した表紙

読者はどのような方を想定していますか。

(林) 主要読者層は、大きく三つに分かれると考えています。
 一つは、安全保障や防衛政策に関わっている有識者や専門家の方々です。我が国を取り巻く安全保障環境や防衛省・自衛隊の政策・取組を分析する際や、論文を書く際などに、白書の中の各種の記述やデータを活用いただいています。
 二つ目は、学生などの若い方も含んだ一般のみなさまです。新聞記事やテレビのニュースなどで防衛問題を目にしたときに、「この問題についてもう少し知りたい」「これはどうなっているんだろう」といった興味関心や疑問から、白書を手にしていただくことが多いようです。
 三つ目は、海外の政府関係者や安全保障政策に関する有識者、専門家です。白書では英語版や中国語版も刊行しており、国際社会に対して、我が国の防衛に対する取り組みなどを高い透明性を持って発信することを大切にしています。

防衛省ではさまざまなツールを用いて情報発信をされていますが、そうした中で『防衛白書』に求められる役割は何だと考えていますか。

(柳田) 防衛省では、公式ホームページやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)、動画配信など、インターネットを積極的に活用した情報発信に取り組んでいます。また広報誌『MAMOR(マモル)』への編集協力も行っています。
 こうした広報媒体と『防衛白書』との一番の違いは、防衛白書は閣議を経た政府刊行物であることです。その分、読者のみなさまは、高い信頼感のもとに白書を手にとられます。その信頼を裏切ることがないように、白書には正確な情報をきちんとした根拠に基づいて発信することが、そのほかの媒体以上に求められてくると考えています。
 また我が国の安全保障・防衛政策や防衛体制を体系的、網羅的に発信しているのも、白書のみです。特に海外の方が、日本の安全保障・防衛政策について英語や中国語で調べようとする場合、体系的にまとまった資料は白書ぐらいしかありません。白書は我が国の安全保障・防衛政策に対する諸外国からの理解と信頼を得るうえでも、大変重要な役割を担っています。
(秋葉) 例えば自衛隊では、戦闘機やイージス艦、潜水艦など、さまざまな装備を新たに購入し、配備しています。白書で心がけているのは、なぜこうした装備が必要なのかについて、我が国を取り巻く安全保障環境から説き起こしつつ、「こういうことが今の日本の防衛上の課題であるから、こうした装備を配備している」というように、その背景や理由を丁寧に説明することです。これにより関係国に不要な不安や誤解を招くことを防げますし、日本の国民のみなさまの理解を得ることにもつながります。

【令和3年版防衛白書より】

※特集、ダイジェストを綴じ込み別冊とした本年版防衛白書

読者の方により興味を持って読んでいただけるように、編集面ではどんな工夫をされていますか。

(秋葉) 『防衛白書』では、昭和52年版からイラスト、昭和53年版からは写真の使用を開始するなど、より読みやすく、わかりやすい情報の発信に努めてきました。令和2年版からは、本文の中にQRコードを配置し、スマートフォン等を使えば、自衛隊の活動の様子がわかる動画が観られるようにしました。これは読者のみなさまからも好評を得ています。
 今回刊行される令和3年版で新たに工夫したのは、本冊のスリム化を図ったことです。
 これまで『防衛白書』は、冒頭に「巻頭特集」や本文の要約版である「ダイジェスト」があり、次に本文、巻末に資料編を配置するという構成になっていました。年々お伝えしたい情報が増えていくために、ページ数が膨大になってしまっていることが課題の一つでした。
 そこで令和3年版では、「巻頭特集」や「ダイジェスト」については、ブックインブックといって、その部分だけを取り外して読めるようにしました。概要だけ知りたいというときには、わざわざ重たい本冊を手にしなくても済むようにしたわけです。
また資料編に載せていた各種のデータについては、本冊に掲載するのは取りやめ、インターネット上のみで公開することにしました。
(林) 先ほどもお話ししたように『防衛白書』の主要読者層は、大きく一般の国民の方と国内外の有識者・専門家に分かれます。一般の方の場合、「情勢や防衛省・自衛隊の取組の概要がわかれば十分」というケースがほとんどだと思います。そういう方のために写真や図表を多用したダイジェストと特集部分をブックインブックにしました。
 一方、有識者や専門家の方にとっては、データが非常に重要な意味を持ちます。そうした方々にヒアリングをしたところ、白書本冊をパラパラめくって調べるよりもインターネットで必要なデータを検索して使っているという声が大多数でしたので、完全にオンライン化にしたわけです。
 このように、それぞれの読者層のニーズを汲み取りながら、より多くの方に満足いただける白書にするべく工夫をしました。

令和3年版の『防衛白書』の内容面の見どころを教えてください。

(清) 主に2020年4月から2021年3月までの1年間における防衛省・自衛隊の活動や国際情勢を分かりやすく多面的に紹介しております。
 国際情勢については、特に海警法を施行して海洋での活動をより活発化させている中国の動向や、対立がいっそう顕在化しつつある米中関係に紙幅を割いています。
 また、そうした国際情勢の変化に我が国として対応するために、日米防衛相会談等を通じて日米同盟による抑止力・対処力の強化を図っていることや、日米豪印による「自由で開かれたインド太平洋」の維持・強化の取組を行っていることについても、くわしく説明しています。そのほかに新型コロナウィルス感染症に対する防衛省・自衛隊の活動についても解説しています。
 さらに、令和3年は、東日本大震災の発生から10年にあたります。そこで特集では、この10年間の自衛隊の災害派遣活動の取組や、活動を通じて得た教訓などについて紹介しています。この10年の間に、自衛隊の災害派遣活動の内容も変わってきていますので、その歩みをご理解いただける内容になっているのではないかと思います。
 特集ではそのほかにも、「防衛この1年」というタイトルで、令和2年度中に起きた主な出来事について写真を多用しながら紹介している特集企画や、近年重要性が増してきている「宇宙・サイバー・電磁波領域における挑戦」についての特集企画も設けています。
(秋葉) 宇宙やサイバー、電磁波領域については、最近は一般の方の中にも興味を持たれる方が増えてきています。そこで特集企画では、もしそれぞれの領域で他国から妨害を受けた場合、私たちの生活や経済活動にどのような影響を及ぼすことになるのか、防衛省・自衛隊はこの問題にどう対処しようとしているのかについて、読者の方に具体的にイメージしていただけるよう工夫しました。
※後編は8月17日(火)公開予定です。

【令和3年版防衛白書より】

※令和3年版防衛白書ではわかりやすいCGも作成した。
防衛省大臣官房企画評価課白書作成事務室 防衛省の業務全般に関わる部署の一つで、年1回発行する防衛白書の企画・編纂・調整業務に携わる。メンバーは1年で交代。
インタビュー一覧へ

このページの先頭へ