トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.20

みんなで守ろう!「命の水」

地球は水の惑星と言われているが、この地球上の水は海水などの塩水がほとんどを占めており、淡水は約2.5%しかない。そのうえ、その大半が南極や北極地域にある氷山や地下水で固定されており、人が容易に利用できる河川や湖沼などの淡水の量は地球上に存在する水量のわずか0.008%程度にすぎない。
この限りある水の確保が、今、危機に瀕している。近年の地球温暖化による気候変動の影響により、世界各地で渇水や洪水などの自然災害が頻発し、水の安定的な供給が見込めないからだ。
人が生きていく上で欠かせない「水」を将来にわたって守り続けていくために今、どのような取り組みが行われ、また、何が求められているのだろうか。

Angle A

前編

水にかかわる方々の思いや声を大切に

公開日:2020/8/11

2020ミス日本

「水の天使」

中村 真優

水資源に恵まれる日本人にとって、水がどれだけ貴重かを意識する機会はそれほど多くないのではないだろうか。しかし、このことは決して当たり前のものではなく、豊かな日本の自然環境からもたらされた水は、上下水道の関係者など多くの人々の努力によって安定的にその循環が行われている。そんな水循環の現場と国民をつなぐ「広報官」の役割を担うのが2020ミス日本「水の天使」だ。「水の天使」を務める中村真優さんに話を聞いた。

ミス日本「水の天使」の活動はどんなものですか?

 日本の上下水道などを支える人々の心や技術を分かりやすく伝え、皆さんに水への意識を高めてもらう活動をしています。具体的には、浄水場や下水処理場で行われるイベントでの案内役や、国際的な展示会での日本の水循環のPRなど、さまざまです。また、水について、子供たちに楽しく学んでもらうための国際教育プログラムで教師役を務めることもありますので、その指導者の資格(「プロジェクトWET」エデュケーター)も取得しました。
 その前提として、現場の実情と関係者の努力を深く理解するため、ヘルメットをかぶって大きな下水管に入ったり、下水処理場で水がきれいになっていく過程を見たりするといった視察活動を通じて知識を吸収しています。
 「水の天使」に選ばれてからの最初の仕事は、1月の群馬県みなかみ町での「スノーシューフェスティバル」でした。「西洋かんじき」を靴に装着し、参加者と一緒に湯檜曽(ゆびそ)川沿いの雪道を歩くイベントなのですが、この湯檜曽川は首都圏の生活用水をまかなう利根川の支流で、首都圏の人たちの生活や経済をささえる水がどのような環境で生まれているのか、水のもとになる雪の上を歩きながら肌で知ることができました。

ミス日本に応募したきっかけを教えてください。

 自分がかかわる教育支援の分野で、女性がより進出しやすくなるためのロールモデルになりたかったことと、祖父母孝行になればとの思いから応募しました。高校時代にドイツに留学した際、難民の子供たちの教育支援を行う団体で活動し、帰国後、日本でも学習支援のNPO法人を立ち上げました。主な活動内容としては、経済的な事情で、子供たちが教育格差の犠牲にならないようオンラインなどで学習支援を行うのですが、代表としてさまざまな会議に出ると女性の数が少ないこと気づき、変えていきたいと思っていました。
 「水の天使」との関連では、ドイツの難民キャンプで、水が自由に使えないために手を洗うことができずに感染症が広まることも目の当たりにし、日本との大きな違いを実感しました。

【ミス日本「水の天使」に選ばれた中村さん(右から3人目)】

※ミス日本コンテスト事務局提供

日本の水循環・水環境のすばらしさを伝える際、留意していることは何ですか?

 上下水道など水の現場にかかわる方々の思いや声を大切にするということです。メッセージを発信する際には、自分の言葉で伝えることも勿論大事ですが、「関係者はどう言っていたか」「最も伝えたいことは何だったか」をきちんと思い返したうえで、分かりやすく伝えるようにしています。現場の方々は私よりもずっと長い時間、水と接し、重い責任を背負いながら仕事をされていますから。
 そのことを特に痛感したのは埼玉の下水処理施設を視察したときです。24時間3交代で専門の技術者が詰めている中央制御室を見学したのですが、新型コロナウイルスの感染を防ぐため、何重ものセキュリティーがかけられ、厳重に管理されていました。もしそこで感染者が出てしまったら、下水処理という都市の重要インフラが機能しなくなるリスクがあるからです。上下水道の関係者は社会に必要不可欠なエッセンシャルワーカーであり、業務に支障が出た場合、国民に直接大きな影響を与えてしまうのだと思いました。

【埼玉県の元荒川水循環センターで下水処理について視察。現場の努力を肌で知る機会に】

※ミス日本コンテスト事務局提供

活動を通じて、どんな発見や気づきがありましたか?

 以前は下水道というと、最終的に水をきれいにして海に流してくれるところといったイメージを持っていましたが、それだけではないさまざまな側面を知ることができました。例えば汚泥を肥料にしたり、まだ実験段階ですが、処理過程で発生したガスを自動車の燃料として供給したりするといったことです。最近では、下水処理場の水に含まれる新型コロナウイルスの量を測定し、流行の前兆をつかむといった取り組みで、実際に相関があるとのデータも示され注目されました。
 また、私が感銘を受けたのは、下水処理での「季節別運転」です。これは処理した水に含まれる有機物が適正な割合になるよう季節ごとに水質を調整してから海に放水するというものです。季節によって家庭から排出される下水の量が変化するため、処理した水に含まれる養分も変動してしまうのです。それによって養殖のカキやノリの生育に影響を与えてしまうのに配慮したもので、こういう高度な対応が行われることに驚きました。

イベントなどでの参加者の反応で印象に残ったことはありますか?

 コロナ禍で参加者と直接交流する機会がなかなかないのですが、水の天使になったこともあり、自らのNPO法人で子供たちを対象に、水の歴史に関するクイズ大会をやりました。  
 その際、あまり勉強などが好きでないような子も水について真剣に考えている様子がうかがえて、「水」だからこそ興味を持ってくれたかなと思いました。水がどれだけ身近なものか、再認識する機会となりました。
※後編は8月14日(金)公開予定です。

なかむら・まゆ 1998年12月15日生まれ。千葉県柏市出身。身長171cm。第52回ミス日本コンテストで2020ミス日本「水の天使」に選ばれ、水循環の恵みについて国民に啓発・広報する活動を行う。高校時代にドイツに留学、現地で難民支援の活動に従事、帰国後、学習支援を行うNPO法人「こどもの教育を支援する会」を立ち上げ、代表を務める。現在、獨協大学法学部総合政策学科3年。趣味はサッカー観戦、ウオーキング(お散歩)、マンホールカード収集。特技はドイツ語、目標を持ったら最後まで諦めないこと。将来の希望は、教育界から子どもたちが平等でかつ自由に夢を描くことができる環境作りをすること。
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