トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.17

既存住宅の活性化が日本を救うか

全国で約850万戸と推定される空き家。依然として増加傾向にあるものの、空き家をリノベーションして住んだり、民泊やシェアハウス、イベントスペースなどとして活用したり、地方の既存住宅を利用して都心と地方の二拠点居住を楽しんだりするなど、いろいろと新たなニーズが生まれている。また、街づくりや地域の活性化を進めるうえでも、既存住宅の活性化はカギとなる。住まいとしてのほか、趣味や仕事の場として活かしていくことも考えられる既存住宅の資産としての価値を高めていくには、リノベーションによる大胆な工夫や仕掛けを行うことが有効だ。

Angle B

前編

「空き家活用」ニーズの見極め大切

公開日:2020/4/24

Little Japan

代表取締役

柚木 理雄

前回登場のヒロミ氏は既存住宅をリフォームする楽しさについて語ったが、既存住宅の利活用のあり方は、都市部だけでなく地方でも重要な問題になっている。実現のためには様々な課題があるが、この課題に向き合う事業者から見えてくる視点は重要だ。地域資源として、既存住宅の利活用に取り組むLittle Japanの柚木理雄代表に、既存住宅活用の実態について話を聞いた。

ご自身の活動についてご紹介ください。

 私は、「Little Japan」という会社を運営しています。直営事業として、東京・浅草橋で、ゲストハウスを運営しています。築50年のビル(事務所兼住居)を1棟利用して、1階をカフェ、2〜4階を宿泊施設に改造しました。また、NPO法人「芸術家の村」も運営しており、営利・非営利事業の両方で、既存住宅を活用した飲食、宿泊、シェアハウス、コワーキングスペースなどの運営・開発に取り組んでいます。

このような取り組みを始めたきっかけは何でしょうか?

 私個人としても「空き家」の問題を抱えています。私は神戸市出身で、両親は岡山県の出身なのですが、そこで使われなくなった事業所、アパートなどの不動産を抱えています。少子化の影響で柚木家の男子は自分だけ。自分が引き継いだ時にどうするのか、未だ活用法を見いだせていません。
 こうした個人的な経験に加え、2011年の東日本大震災が大きな契機となりました。政府による政策だけではなく、NPOとして活動することで、時代のニーズにきめ細かく応えていくことの重要さに気づかされました。当時、私は農林水産省の職員でしたが、NPOという現場で自分の経験と力を生かしたいと考え、まず、NPO法人「芸術家の村」を立ち上げ、そして「Little Japan」の設立へと踏み出しました。

空き家の活用を考える上での課題とはどんなことでしょうか。

 やはり「空き家を活用できるプロ」がまだ少ないということです。同じ空き家でも、見る人によって利活用できるかどうかの判断は違うわけです。中古物件を見たときに、その「使い道」をイメージできるかどうかがポイントだと思います。例えば、ある物件に対し、シェアハウスとして利用できるプロが見る場合と、ホテルとして利用できるプロが見た場合では、違った答えになるかもしれません。物件は多様な可能性があるので、色々な分野での利用を総合的に判断し、用途を見極めるプロが必要なのです。私もその道のプロを目指して活動しています。

既存住宅の価値をどう考えますか。

 情緒ただよう古民家みたいな「特有の魅力」がある物件もあります。ただ、物置のようなカオス(無秩序)になってしまった物件も非常に多いのが現実です。その際に感じるのは「人が住まなくなるとこんなにも荒れてしまうものなのか」ということです。人が住んで、風が通っていれば、昔ながらの住宅でも、意外と頑丈に長持ちするのですが、使われなくなるとすぐに傷んでしまいます。

既存のものを大事にしようという価値観は広がっていますか。

 家については、これまで新築の価値が高く、中古は低いという考え方が一般的でしたが、現在は若い世代を中心に見直されていると思います。ただそれは、中古品に寛容な人も増えている一方、そうでない人もいて価値観が多様化しているということだと思います。「古いモノが良い」という特定の価値が単独で広がっているわけではないでしょう。既存住宅についても、価値観は多様で、古いモノを大事にしたいという人、環境への負荷を考えて注目しているという人、単純に便利な場所に立地しているから注目している人、安いから注目している人など、様々です。単に新しい暮らしをしたいから、という考えの人もいるようです。

古いというだけでは魅力にならないのですね。

 そうです。物件が継続して利用されるためには、古さや歴史といったストーリーやコンセプトだけでなく、ハードとしての居心地の良さも大事です。例えば、適正な規模感。私たちが運営しているLittle Japanの1階は、イベントの利用を想定して、十数人から20人程度にとって適正な規模にしました。私の経験上、1回2時間のイベントでコミュニケーションが取れる最大の人数が20人です。100人のイベントを実施してもこれは変わりません。私たちが行っているイベントは、そのまま私たちのコミュニティ(コミュニティビルディング)に入ってもらうことが目的ですので、20人規模のイベントをするのが適正です。また、このぐらいの規模の空間だと、少人数でも「にぎわい」を感じてもらうことができます。広すぎる空間を少人数で使うと、にぎわいを演出しにくいのです。大き過ぎる空間は小分けにして、静かにくつろぐスペースと、騒いでもよいスペースに用途を分けることも大事です。自分本位でバラ色の計画を立てるのではなく、お客さんのニーズを見定めながら、事業に取り組むことがポイントです。単なる投資として参入してきているゲストハウス業者は、いずれ廃業していく時代なのです。

【築50年の中古ビルを改造し1階をカフェスペースへ】

Little Japan提供

地方で中古物件を活用した事業を行うには何が大事でしょうか。

 私は中央大学で教壇に立っていますが、そこでのゼミは地域資源を有効活用したビジネス創出をテーマにしています。東京や山梨の山村地区で、地域の自然や人材、文化を活用して、学生とともに新しい事業を考えています。学生は難しい話を、楽しい話に変えてくれるので、そこに可能性があると考えています。例えば、山梨県丹波山村では、「サバイバルゲーム」の事業化を目指しているチームがあります。「猟師の村で、本物の猟師と対戦して生き抜く」という設定のレジャーで、村の人も面白いのではないか、大変好意的に協力してくれています。
地方創生のためには、国のようにプランニングをする人が必要な一方で、実際にそこで構想を実現する人材も必要です。でも実際はプランばかりが作られ、現場で動く人材が少ないと感じています。現場の方が負うリスクが大きいからでしょう。でも実働する人がいなければ世の中は変わりません。大学での実践を通して、事業を作り出す楽しさを経験してもらい、実働する若い人を育てていきたいと考えています。今年は、山村での学生たちの試みを、継続可能な事業に仕上げていきたいという思いで取り組んでいます。
※後編に続きます。

ゆのき・みちお。1984年生まれ、神戸市出身。「Little Japan」代表取締役、NPO「芸術家の村」理事長、中央大学特任准教授、Localist Tokyo共同代表など。2012年に東日本大震災をきっかけに様々なNPOのボランティア活動に関わり始める。2017年に当時の勤務先だった農林水産省を辞職し、空き家問題などの地域資源の活用や関係人口の創出に、民間の立場から取り組みを始める。東京・浅草橋でのゲストハウス「Little Japan」や月額定額制で全国のホステルに泊まり放題になる「Hostel Life」などを運営。大学での教育活動や講演、行政の受託事業など、幅広く活動。
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