トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.25

鉄道×デザインのニューウェーブ

新型コロナウイルスの感染拡大により、通勤や旅行需要が減少し、各社は利用者の大幅な減少に苦慮しているが、鉄道には単なる移動手段としてのみならず、快適な旅を演出する空間や、車窓から見える風光明媚な景色を楽しめるなど魅力が満載である。なかでも近年は、内外装に意匠を尽くした観光列車や、居心地の良い駅舎などのデザインが注目を集めている。そこで、奇抜な「顔」が話題の叡山電鉄「ひえい」や、地域に根ざしたイメージ戦略が注目を集める相模鉄道の取り組みなど鉄道デザインの“いま”を探った。

Angle A

後編

SNSで鉄道会社の“映え”をPR!

公開日:2021/1/15

鉄道チャンネルMC

柏原 美紀

全国各地で豪華な観光列車が次々誕生するなど、移動手段から乗車自体を楽しむものへと幅を広げる現代の鉄道。その一方で、地方では自動車の普及により利用者の減少に見舞われたり、コロナ禍でのテレワークの広がりは都市での通勤利用の減少につながったりと、厳しい現状に直面する。鉄道が輝かしさを取り戻すためには何が必要だろうか。

JR各社で「ななつ星in九州」「TRAIN SUITE 四季島」「TWILIGHT EXPRESS 瑞風(みずかぜ)」といった豪華列車が人気ですね。

 鉄道について、私もかつては移動のための手段としか考えていませんでした。けれども、横浜~伊豆急下田間の「ザ・ロイヤルエクスプレス」(前編参照)などの観光列車に乗ってみて、目的地に行くだけではなく、列車自体が“目的地”であって、そこでしか味わえないサービスや、移動しながら変化していく車窓からの美しい景観など、“こういうおもしろさもあるのだな”と気づきました。ただ、「ななつ星」などの超豪華な列車は私にとってもあこがれで、なかなか手の届かないところにあります。
 「ななつ星」ほどのグレードではなくても気軽な料金で楽しめる観光列車もたくさんあります。私がぜひ勧めたいのが、通常の乗車券で乗れる観光列車のような外観・内装の列車です。その1つが伊豆急の「キンメ電車」。7両編成で、伊豆の海の景観を楽しめるよう一部の座席が海側を向き、海側の窓が大きくなっています。外観は伊豆の特産であるキンメダイをイメージした赤で、車両ごとに伊豆の市や町を割り当てて特産品をPR、3号車はキンメダイの歴史や生態などを紹介する「博物館」になっています。私が乗ったときも、知らないで駅に来たお客さんが列車の外観や内装を見て「乗車券しかないけど、これ、乗っていいのかな?」なんて言っていました。伊豆急では、下田での開国の歴史にちなんだ「黒船電車」という列車も運行していて、これも通常の乗車券だけで乗ることができます。

【キンメダイをイメージした外観のキンメ電車(5月下旬までは定期検査。黒船電車は運行中)】

※伊豆急行株式会社提供

駅舎も宿泊施設や温泉施設を併設したり、買い物や食事を満喫するなど、単なる乗り降りではなく、楽しむ場所としても変貌していますね。

 横浜や東京にいるときは、駅ナカ商業施設「エキュート」などでのショッピングを楽しんでいます。運営するJR東日本リテールネットの方から聞いたのですが、駅の利用客層が微妙に違うので、エキュートもそれに合わせた商品構成にしているそうで、そういう違いを見るのも楽しいですね。地方ロケに行った際は、その地域の特産物を知ることができるということで、駅の売店でお土産を見たり買ったりするのも好きです。
 私が訪ねた駅舎の中で印象に残っているのは、肥薩おれんじ鉄道(鹿児島県)の阿久根駅です。数年前に改修された駅舎は地元の木材がふんだんに使われ、ロビーはミニコンサートもできる多目的イベントスペース、ほかにも図書室(図書コーナー)、スイーツも食べられるレストランやお土産を置くショップもあり、地元の方がふらっと来て楽しめる交流の場になっているところに感心しました。

コロナ禍などで鉄道需要が減少していますが、環境にやさしい鉄道は重要なインフラです。鉄道網の維持に必要なことは何でしょうか?

 地方にロケに行くと、乗客の多くは通学の学生か高齢者。車が便利なのは分かりますが、鉄道を利用しないことによって運転本数が減り、それでさらに利用者が減り…と悪循環になっています。例えば鉄道利用者だけが地元で使える割引特典のようなものとか、何かいい方策があればと思います。それから、コロナが落ち着いて鉄道各社のイベントが行われるようになったら、ぜひ一度行ってみていただきたいです。沿線も含めたその鉄道の魅力も紹介していますし、各社にとっても利用者の声が直接聞ける貴重な機会と位置付けています。そこでいろいろな声を聞かせてもらうことで、例えば、自社で気づいていない魅力を教えてもらい、新たに広めようという契機にもなるかと思います。

女性も含め、鉄道ファンをさらに増やしていくにはどのようにしたらいいですか?

 SNSですね。鉄道会社はSNSの活用がやや弱いかな、とも感じています。写真映えする車両の内装や駅舎など、インスタグラムなどにはあまり上げられていないので、そういうところに力を入れていけば、女性のファンはもっと増えるのではないかと思います。インフルエンサーの人に来てもらって、“映える”画像を投稿してもらうとか。
 それから、とても魅力的なものなのに、鉄道会社がその良さに気づいていないようなケースもあります。長野県の上田電鉄に乗った際、かわいい駅舎が多くあって、八木沢駅など色もかわいくてインスタ映えするような駅舎なので、「この駅、すごくいいですよ」と社員の方に伝えたら、「こういうのがいいんですか」といった反応でした。今、インスタ映えするからそれを撮るために旅行する若い人も多いので、その辺に力を入れていただければと思います。

【色もかわいらしく、インスタ映えすると柏原さんが勧める上田電鉄の八木沢駅】

※本人提供

最後に読者へのメッセージをお願いします。

 鉄道を移動の手段だと考える人はまだ多いですが、鉄道自体を目的とした旅程の組み方をしてみるのもおもしろいので一度やってみてください。乗っているだけで旅行の気分と食の楽しさとを味わえる観光列車が特にお勧めです。(了)

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