トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.20

みんなで守ろう!「命の水」

地球は水の惑星と言われているが、この地球上の水は海水などの塩水がほとんどを占めており、淡水は約2.5%しかない。そのうえ、その大半が南極や北極地域にある氷山や地下水で固定されており、人が容易に利用できる河川や湖沼などの淡水の量は地球上に存在する水量のわずか0.008%程度にすぎない。
この限りある水の確保が、今、危機に瀕している。近年の地球温暖化による気候変動の影響により、世界各地で渇水や洪水などの自然災害が頻発し、水の安定的な供給が見込めないからだ。
人が生きていく上で欠かせない「水」を将来にわたって守り続けていくために今、どのような取り組みが行われ、また、何が求められているのだろうか。

Angle B

後編

実業と結びついた環境保護を

公開日:2020/8/21

サントリーホールディングス株式会社

山田 健

サントリーの森林再生プロジェクト「天然水の森」は2003年の熊本・阿蘇を皮切りに、水源涵養(かんよう)エリアを着実に拡大。2020年に全工場でくみ上げる地下水の2倍を育む涵養林の確保という目標を達成した。しかし、森の中には、まだまだ不健康な区画も残されており、理想的な森に育てあげるまでには、まだまだ時間がかかりそうだ。

このプロジェクトを通じて気付いた課題を教えてください。

 まず、放置された人工林の問題があります。日本の森のうち約4割はスギやヒノキなどの針葉樹を植えた人工林です。戦前は薪や炭として利用できるクヌギやコナラなど広葉樹林が広がっていましたが、戦後は成長の早いスギやヒノキが大量に植林されました。当時、ガスや電気のインフラが整い、薪や炭は時代遅れになるうえ、建築用材には真っすぐ育つ針葉樹の方が都合がいいと考えられていたようです。
 しかし、植林しても木材として販売できるようになるまでには膨大な手入れの手間や費用がかかるため、なかなか割に合いません。そこに追い打ちをかけて安価な輸入木材が流通し、経済性がなくなった人工林の多くは放置されました。その結果、放置林は歩く隙間もないくらい木がびっしり並び、真っ暗で地面がむき出しになってしまいました。これでは雨が降っても地表を流れるだけで、地下に水が浸み込みません。そうすると地下水を涵養できないのは勿論のこと、豪雨が降ると森が水を吸収し切れずに、表面流出してしまい、一気に河川が増水します。水害が多発しているいま、森林の整備は防災面でも重要な課題だと思います。

涵養林を整備するうえでの障害は何でしょうか?

 いま最も頭を悩ませているのが鹿による食害です。鹿は、戦後の一時期においては絶滅の危機に瀕(ひん)していましたが、その後の過剰な保護政策による反動で数が増加し、今では、地表の植生を食い尽くされた斜面で山崩れが起きるほどに被害が深刻になっています。
 鹿がほかの動物と大きく違うのは、どんな草や木でも食べられるようになることです。鹿は好きな草木を食い尽くすと、それまで好まなかった笹や毒性のあるトリカブトまで食べるようになります。そうすると食い尽くされた植物に頼っていた虫や鳥、動物などが次々に滅びてしまいます。いまや鹿による食害は森林生態系全体にとっての大きな脅威になっていて、対策が急務です。

「天然水の森」プロジェクトの今後の展開を教えてください。

 森林を整備するのはもちろんですが、育った木材を有効利用することも考えています。CO2の固定という意味でも、また山元にお金を還元するという意味でも、木材を有効利用することは重要です。サントリーでは、山を健康にするための整備から生まれた木材に「育林材」という名前をつけて、この活動に共鳴して下さる家具や住宅などのメーカーさんと協働して、付加価値の高い木製品を作るプロジェクトを始めています。
 また、森林の現状を認識し、整備の必要性を理解してもらうことも重要だと思っています。最近は他社でも森林再生の活動が広がっていますが、サントリーの取り組みを参考にしてもらうのは大歓迎です。森林に限らず、自分の会社の生命線となる資源を守る「実業と結びついた環境保護活動」が広がってほしいと思っています。地球温暖化のような地球規模の環境問題には総力戦でないと勝てませんから。

【サントリー社員による森林整備体験。「天然水の森 奥大山」のヒノキ林の枯れ枝を切り落とし、光環境を改善している】

※鳥取県江府町での様子 サントリーホールディングス株式会社提供

最後に読者へのメッセージをお願いします。

 日本は蛇口をひねれば水が供給されるので、水のありがたさやどこで育まれたかに思いをはせることは少ないかもしれません。でも、できれば、買い物をするときに、その商品が豊かな資源を守ろうとしている会社のものなのかどうかに意識を向けてほしいと思います。日常、食べたり使ったりしているものを、持続可能性のある製品にする―そんな小さなことの積み重ねで、世界がより良くなる可能性を秘めていると思います。(了)

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