トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.19

離島は日本のサテライト拠点?

6800を超える島々で構成される島国の日本では、その領域、排他的経済水域の保全や、多様な歴史や文化の継承といった様々な重要な役割を担う離島。豊かな海洋資源に囲まれ、その魅力に引かれて定住する流れが生まれつつある。国は有人島のうち沖縄、奄美、小笠原などを除く78地域255島を離島振興法の対象とし、近年では離島と企業をつなぐ「しまっちんぐ」の開催やICT等の新たな技術を離島に導入を推進する「スマートアイランド」などの振興策に取り組んでいる。また、働き方改革などでリモートワークが広がるなか、ワーク・ライフ・バランスを実現する環境を持つ離島の多様な魅力に迫る。

Angle B

前編

特産品のブランディングや商品PRをICTで支援

公開日:2020/7/21

KDDI株式会社

サステナビリティ推進室長

鳥光健太郎

 離島には豊かな自然や特有の文化が残る一方、人口流出や雇用減少などの課題を抱えている。その原因の一つが消費地である都市部と離れているため、産業の規模拡大が難しいことだ。KDDI株式会社では通信事業で蓄積した知見を生かして、2015年から「しまものプロジェクト」に取り組み、離島の産業活性化をサポートしている。同社サステナビリティ推進室の鳥光健太郎室長に話を聞いた。

KDDIが離島に着目したきっかけを教えてください。

 沖縄には中学校までしかない離島があり、高校生になると親元を離れて本島に進学します。その際に両親との連絡手段として携帯電話を渡されますが、携帯電話やインターネットの適切な使い方を学ぶ機会がほとんどないという離島において、本島への進学後、ネット上のいじめ、ソーシャルなどのトラブルに巻き込まれてしまう子どもたちも少なくありません。こうしたトラブルを防ぐため、2014年に携帯電話の安心・安全な使い方を教える講座を沖縄セルラーと開いたのが、離島との出会いになりました。
 弊社はもともと通信を中心とする事業を通じて社会課題の解決に取り組んでいましたが、若年層をはじめとする人口流出や流通販売における課題など地方部ならではの課題に気付き、地方創生に資する活動に貢献できると考えました。なかでも離島は周囲を海で隔絶されているため、都市部との距離や島の特産品の輸送費用などの課題を解決するためのハードルが高いのではないでしょうか。そこで、地域課題の縮図ともいえる離島の活性化に何か貢献できないかと検討するなかで、離島事情に詳しい離島経済新聞社との出会いもあり、「しまものプロジェクト」を立ち上げました。

KDDIが地方創生に貢献できると考えているのはどんな分野ですか。

 人口流出問題に対しては、弊社の通信サービスなどにより、働く場所を選ばず、地方にいても仕事ができる環境に貢献できます。また、ICT(情報通信技術)を活用することで、貢献できる領域は広いと考えています。実際に離島には、優れた貴重な特産品がたくさんあってもブランディングや商品PRに課題があると分かりました。例えば、魚介類・水産品や農産品、加工品などは漁師、農家の自宅前で売るなど島内の消費が中心です。一方で島外に販売する際は、輸送費などを賄うために競合商品と比べて価格が高くなるため、販路の確保が難しいという問題点も感じました。
 しかし、せっかくの魅力的な特産品を一大消費地である本土に届けられないのはもったいないことですので、弊社は、プロジェクトの第一弾として、離島産品の販売と情報発信をサポートするため、KDDIのショッピングサービス「au WALLET Market」のウェブサイトに、離島産品を集めた「しまものマルシェ」という特集ページを開設しました。これまで喜界島(鹿児島)の冷凍車海老などの食品類から、壱岐島(長崎県)の火山灰由来で天然素材100%の水あかクリーナーまで、これまで22島計36商品を販売しました。

【しまものマルシェに出品する喜界島の生産者と鳥光さん(左から3人目)】

※KDDIサステナビリティ推進室提供

離島事業者を対象に開いている講座「しまものラボ」の狙いを教えてください。

 販売のみの支援だと一過性で終わってしまう可能性があり、島の事業者の皆さんの真のニーズを探っていました。全国販売を視野に入れ、商品の魅力や販売時のポイントの伝え方、
離島産品の価値向上、ブランディングなどを事業者が習得することこそが本当の地域活性化につながると考えました。
 そこで、2016年からKDDIグループや外部から講師を招いて、ブランディングや商品のPR方法を学ぶ講座を開催しています。この講義をきっかけに、現地で大きなサイズや多めの量で売られていた特産品が、核家族化が進む本土の消費ニーズに適したサイズ、量に変更を検討されるなどの事例がありました。
 また、全国のauユーザ向けの商品モニター調査も実施します。例えば、喜界島の車海老は「高級品が贈られてきてありがたいが、どう調理すればいいのか分からないのでレシピが欲しい」という意見があったので、商品発送時にレシピを同封したらお客さんに喜ばれたそうです。離島事業者も、新鮮な状態で、食べてもらいたい調理法で味わってもらえると喜んでいたのが印象的でした。
 最近は、食品衛生管理の国際的な手法「HACCP(ハサップ)」が食品業者に適用されたことを受け、その理解と基準クリアに向けたプログラムのご依頼を受けるケースも増えています。

どんな成果を生んでいますか。

 各事業者によって取り組みに差があるので一概には言えませんが、しまものマルシェをきっかけに「年間を通じて安定的に注文が入るようになった」、「全国で販売できたことで自信になった」という反響がありました。売り上げが安定することで雇用につながったという報告もあります。
 しまものラボはいろいろな離島から問い合わせがあるので、年2カ所のペースで継続し、ネット販売に興味がある事業者をしまものマルシェに誘引していきたいです。この2つの活動を続けつつ、販売支援と事業者育成のさらに次の展開も考えていきたいと思います。
※後編に続きます。

とりみつ・けんたろう 1973年生まれ、千葉県出身。1995年同志社大学法学部卒業、国際電信電話株式会社(現KDDI)入社。企業向けサービスの営業企画、法人営業などを経験したのち、2008年から、一貫してCSR、サステナビリティ分野の業務に従事。社会の持続的な成長に貢献する会社を目指し、SDGs(持続可能な開発目標)、ESG(環境・社会・企業統治)、地方創生、情報リテラシー向上など、社会課題の解決に取り組んでいる。
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