トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.19

離島は日本のサテライト拠点?

6800を超える島々で構成される島国の日本では、その領域、排他的経済水域の保全や、多様な歴史や文化の継承といった様々な重要な役割を担う離島。豊かな海洋資源に囲まれ、その魅力に引かれて定住する流れが生まれつつある。国は有人島のうち沖縄、奄美、小笠原などを除く78地域255島を離島振興法の対象とし、近年では離島と企業をつなぐ「しまっちんぐ」の開催やICT等の新たな技術を離島に導入を推進する「スマートアイランド」などの振興策に取り組んでいる。また、働き方改革などでリモートワークが広がるなか、ワーク・ライフ・バランスを実現する環境を持つ離島の多様な魅力に迫る。

Angle C

前編

離島の魅力や課題をかんがえるきっかけに

公開日:2020/7/28

NPO法人離島経済新聞社

統括編集長

鯨本 あつこ

四方を海で囲まれているという厳しい条件が、離島の経済発展を妨げてきたが、ICT(情報通信技術)の発展により、本土との情報格差は埋まりつつある。このことによって、大自然の中での暮らしとリモートワークの両立が可能になり、離島は移住・定住の場所としても注目を集めている。島の人々の暮らしに寄り添う情報を発信し続けているNPO法人離島経済新聞社で統括編集長を務める鯨本あつこさんに話を聞いた。

離島経済新聞社について教えてください。

 離島経済新聞社、通称、リトケイは、国内にある約420島の有人離島専門メディアで、離島専門ウェブメディアとフリーペーパー「季刊 ritokei(リトケイ)」の運営・発行を中心に、離島地域の健全な持続に貢献する事業を行っています。リトケイは、2010年からメディア活動を始めましたが、2014年からはNPO法人として活動の幅を広げています。

活動方針はどのようなものでしょうか。

 経済面では、本土と比べ後れをとりがちな離島地域に、高度経済成長以降の日本で失われつつある「人と人とのつながり」「人と自然が共生する暮らし」「伝統文化を継承する心」など、日本の原初的な価値が残っていることに重要性を感じ、離島地域固有の営みから、島国である日本の未来のヒントを見つけたいと考えています。

紙媒体やウェブサイトの読者層の傾向を教えてください。

 「季刊ritokei」は、161島・148市区町村を含め、全国に900カ所以上の設置ポイントに置いていただいて、春夏秋冬にそれぞれ1万2000部ほどを発行しています。設置ポイントは、離島・本土の港、観光協会、役場、宿泊場所、書店、図書館などです。東京でも、「離島キッチン」の日本橋店、神楽坂店や、有楽町の「認定NPO法人ふるさと回帰支援センター」などに置いていただいています。
 ウェブサイトは30歳から50歳代が中心で、男女比では若干男性が多いです。ウェブサイトは本土、離島地域とも場所を選ばずにアクセスできるので、人口の絶対数の多い都市部、とりわけ東京の人たちによく読まれています。フリーペーパーの読者層を知ることは難しいですが、設置ポイントのある島の人たちには手に取ってもらえているようです。

【『季刊ritokei』は全国各地の公式設置ポイントで配布されている】

※離島経済新聞社提供

よく読まれているのはどのような記事ですか?

 読者の注目が高いのは、離島留学に関する記事です。子供を島の学校へ留学させたい親御さんが、ネットの記事検索で見つけて、ウェブサイトに訪問していただく場合も多いと思います。離島留学の魅力は、都市部に住む子供たちが、大自然の中でのびのびと学び、地域ぐるみで成長を見守ってもらえる地域住民とのふれあいです。
 ただ、離島留学生を受け入れる里親の高齢化により、人手が足りなくなり、休校になるケースもあります。一方で、UIターンで子供の数が増えたため、休校していた学校が再開する事例もあり、話題には事欠きません。
 私たちは、島々の地域づくりの役に立つ情報を島に住んでいる人が読みやすい形で記事にするように心がけていますが、離島留学に関心のある親御さんたちにも興味をもって読んでもらえるのは嬉しいことです。「季刊ritokei」でも、離島留学の記事には大きな反響があります。このほか、持続可能な観光や、SDGs(持続可能な開発目標)、海ごみ問題といった、島だけでは解決の難しい課題に関する特集にも、多くの反響がありました。

メディア事業を通して、どのように離島振興へ貢献しようと考えていますか?

 離島経済新聞社のメディアでは、島々の健やかな持続を目標に、人が暮らしている島に関する情報や地域づくりに関する情報を提供しています。言葉では表しにくい離島地域の価値や、島特有の解決すべき課題をともに言語化することで、持続可能な島の暮らしや環境づくりなどに関心をもってもらいたいと思っています。
 例えば、沖縄の竹富島では300人台の住民に対し、年間50万人以上の観光客が訪れるなど、明らかなオーバーツーリズムとなっています。素晴らしい自然や伝統的な景観を求めて、多くの観光客が竹富島を訪れる気持ちはわかるのですが、島に住んでいる人にとっては、島は居住空間です。すべての住民が観光業に携わっているわけでもありません。  
 私たちの記事を通じて、「迷惑にならないようなバランスの取れた観光のあり方とはどういうものだろう?」ということを考えるきっかけにしてもらいたいです。

これまで取材した中で記憶にのこる離島はどこでしょう?

 人が住む島は日本に416島ありますが、なかには人口が数人の小さな島もあります。10年かけて120島程度訪れましたが、どの島も個性的で多様性があるところが魅力です。竹芝桟橋からフェリーに乗って東京の島々を巡ったことがあるのですが、11島(大島、利島、式根島、新島、神津島、三宅島、御蔵島、八丈島、青ヶ島、父島、母島)はそれぞれの文化を持ち、方言も違います。生息している動物や植物もそれぞれで、全く異なった11通りの顔を持っている事実を鮮烈に感じました。
 私の仕事は編集がメインですが、その一方で地域づくりのお手伝いもしていて、地域づくり事業をご一緒している地域は全国各地にあります。写真家やライターなど416島をすべて訪れた人も知っていますが、私はまだ比較的人口の多い島に行くことが多いです。島の人口に比例して、用事も多くなるからですが、いつかは、すべての島に行ってみたいですね。

【小笠原諸島・父島ではホエールウォッチングが体験できる】

※一般社団法人小笠原村観光協会提供

離島が抱える課題は何だと思いますか?

 現在、人口減少が進む日本では、離島地域をはじめ、多くの地域が過疎化や少子高齢化などの社会問題に直面しています。なかでも離島地域は、経済の中心地である都市部との間に物理的な距離があるため、ヒト・モノ・コトの移動にコストがかかり、営みのベースとなる産業振興に課題を持つ地域が多いです。都市部との距離によって、教育、交通、流通、医療が十分に行き届かず、これらがなくなってしまうと、人が住めなくなってしまいます。

具体的にどの分野が最も重要でしょう?

 私たちは、これらの課題のうち、教育の分野が最も身近で重要だと考えています。そもそも教育機関のない島もありますし、今は存在していても、休校になってしまいそうな学校もあります。教育がないと子育て世代が島に帰れず、また、子育て層がいなくなると、学校を復活させることが難しくなり、島を担う世代がいなくなるという悪循環が生まれます。新型コロナウイルスの感染拡大でオンラインを活用した教育や医療が進みましたが、これをきっかけに本土との距離というハンデを埋める遠隔教育や遠隔医療に期待したいです。
※後編は7月31日(金)に公開予定です。

いさもと・あつこ 1982年大分県日田市生まれ。NPO法人離島経済新聞社(東京)が発行する有人離島専門メディア『季刊ritokei(リトケイ)』統括編集長。地方誌編集者、経済誌の広告ディレクター、イラストレーター等を経て2010年に離島経済新聞社を設立。2015年より東京を離れ、沖縄や日田で子育てをしながら、東京や離島地域をめぐるリモートワーカーに。美ら島沖縄大使。一般社団法人石垣島クリエイティブフラッグ理事。
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