トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.11

「空飛ぶクルマ」もう夢じゃない!

次世代モビリティの柱として注目を集めているのが「空飛ぶクルマ」だ。これまで、アニメや書籍等で未来の乗り物として語られてきたが、近年、国内外の企業が実用化に向けた開発を進めている。国内でも政府が2023年の事業開始を目標に掲げ、企業と自治体も連携して産業化に向けた取り組みを推進するなど、活発な動きを見せている。空飛ぶクルマ社会が実現すると、世の中にどのような変化がもたらされるのかを探る。

Angle C

後編

福島を「日本のキティホーク」に

公開日:2019/10/29

東京大学

特任教授

鈴木 真二

日本国内で「空飛ぶクルマ」の試験飛行の拠点と位置づけられているのが、福島県にある「福島ロボットテストフィールド」だ。東京大学特任教授の鈴木真二氏は、福島ロボットテストフィールド所長も務める。人類が初めて有人動力飛行に成功した地にちなんで、鈴木氏は、「福島を将来、日本のキティホークに育てたい」と語る。

「福島ロボットテストフィールド」とは?

 「福島ロボットテストフィールド」は福島県の南相馬市と浪江町に位置し、2020年春に全面開業します。国家戦略として、東日本大震災の被災地域で新たな産業を育てることを目的に、津波で浸水した地区に整備されています。
 ドローンなどの飛行試験や、自動運転ロボット、水中や水上を探査する無人ロボットなどを開発するための本格的な設備を備えており、移動ロボットの総合的な研究、実験ができる世界的にも例のない施設です。「無人航空機エリア」、「インフラ点検・災害対応エリア」、「水中・水上ロボットエリア」、「開発基盤エリア」を設けるとともに、長距離飛行試験のための滑走路を整備します。研究開発、実証試験、性能評価、操縦訓練を行うことができ、移動ロボットの開発で世界の最先端の場所を目指しています。今後は空飛ぶクルマの飛行試験にも対応します。

【全面開業に向けて整備が進む「福島ロボットテストフィールド」】

福島ロボットテストフィールド提供

どんな実験が行われるのですか?

 福島ロボットテストフィールドには、街を再現したスペースがありますし、十数キロ飛ぶことができる飛行試験も可能です。実際に「空飛ぶクルマ」が生活で使われるケースを想定して問題点を洗い出していくのです。また、福島県は、三重県と空飛ぶクルマの実用化に向けた協力協定を締結しました。福島ロボットテストフィールドでの試験運行を経て、三重県の離島や山間部で飛行などの実証実験を行う予定で、災害時や観光の際の移動手段としても期待されています。
 さらに、空、陸、海のすべての移動ロボットの研究開発ができる施設のメリットを生かして、使う人にとって便利でストレスにならないような、空、陸、海をシームレスに移動できるシステムの構築を考えています。あらゆるモビリティをつなぎ、一つのサービスとして提供する「MaaS(マース)」(モビリティ・アズ・ア・サービス)の考え方で、空、陸、海の移動手段をつなげていくのです。
 日本でこのまま少子化が進み、1人1人が1つの場所にとどまっていると、地域コミュニティーが維持できなくなってしまい、現状の生活システムが機能しなくなってくるでしょう。こうした事態に対応するため、1人の人が1か所にとどまるのでなく、どこへでも移動し、働いて生活できる環境づくりが必要です。そのためには、お金と時間をかけずに簡単に移動できるようにしなければなりません。 
 そのためには、ある地点から日本中のどこに向かっても、日帰りができるようにしたいです。空、陸、海をシームレスに移動できるようにするためにも、中近距離の移動に適した空飛ぶクルマが社会で果たす役割は大きなものになるでしょう。

「空飛ぶクルマ」の開発に当たっての技術的な課題は?

 まず、バッテリーの性能を向上させることが条件です。現在のものより、4倍から5倍、性能を向上させると、実用化に向けて全く問題のないレベルに到達することができます。また、バッテリーの開発を進める一方で、現段階では、ハイブリッド自動車と同じようにバッテリーとエンジンによるハイブリッド(複合)式にすることで、空飛ぶクルマの実用化を目指してはどうかという声も出てきています。
 バッテリーとエンジンのハイブリッドは、日本が世界に先駆けて自動車で実用化した技術です。中長期的な視野で、こうした技術を空飛ぶクルマにも用いていくことが必要です。実際、日本メーカーの自動車と航空機の製造技術を結集すると、世界的にも競争力が発揮できると考えています。電気自動車のバッテリー開発については、日本は世界最先端の技術を持っていますから、日本が世界をリードできる新たなマーケットをつくることにつながります。

ご自身にとって「空飛ぶクルマ」とは?

 ライト兄弟は米ノースカロライナ州のキティホークで試験飛行を重ね、1903年12月17日、人類初の有人動力飛行に成功しました。その後、私たちは、空の移動手段を獲得しました。しかしながら、現在のところ、大きなジェット機に詰め込まれて長距離を移動し、中近距離向けの小さな飛行機は身近に利用できる環境にはありません。まだ、「自由に空を移動する」手段を獲得できているとは言えないのです。
 誰もが身近に空を移動できる手段、「空の移動革命」の主役として、空飛ぶクルマは、まさにふさわしい乗り物です。産業の新しい柱としても期待できます。一般の方々が日常生活で自由に利用できるようになるのは、2035年ごろでしょう。自動車のように飛行機を使える世界が実現するのです。今後、さまざまな研究と実験を重ね、「福島ロボットテストフィールド」を日本のキティホークに育てていきたいです。(了)

 世界中で開発競争が行われている「空飛ぶクルマ」。若い才能と発想力を結集し、実用化に向けた開発を進める株式会社スカイドライブの福澤知浩氏。デロイトトーマツグループで長年、航空宇宙産業への知見を蓄積してきた谷本浩隆氏。「空飛ぶクルマ」の試験飛行の拠点である福島ロボットテストフィールド所長も務める東京大学の鈴木真二氏に、それぞれの立場で未来社会を描いていただいた。
 次回のテーマは「港湾革命」です。私たちにとっては、普段なじみのない港湾で今、AI、IoTなどを活用して世界最先端を目指す取り組みや、官民連携による海外展開向けの港湾物流プロジェクトが始まっています。識者にお話を伺いながら、港湾の今後の展望を考察します。
(Grasp編集部)

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