トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.11

「空飛ぶクルマ」もう夢じゃない!

次世代モビリティの柱として注目を集めているのが「空飛ぶクルマ」だ。これまで、アニメや書籍等で未来の乗り物として語られてきたが、近年、国内外の企業が実用化に向けた開発を進めている。国内でも政府が2023年の事業開始を目標に掲げ、企業と自治体も連携して産業化に向けた取り組みを推進するなど、活発な動きを見せている。空飛ぶクルマ社会が実現すると、世の中にどのような変化がもたらされるのかを探る。

Angle B

前編

“空飛ぶルール作り”が実用化のカギ

公開日:2019/10/15

デロイト トーマツ グループ

シニアマネジャー

谷本 浩隆

空飛ぶクルマの実現が、数年先に迫っていると言われるが、新たな移動手段の出現で社会はどう変わっていくのだろうか。そして、どのような期待がもたれているのだろうか。空飛ぶクルマについて、包括的に情報を収集して分析している、デロイトトーマツグループのシニアマネジャー谷本浩隆さんに、現段階で描いている新しい社会の姿を語ってもらった。

空飛ぶクルマの実現性は、どこまで来ているのでしょうか。

 そもそも「空飛ぶクルマ」とは、どのようなものなのかということですが、一般的な共通認識として言えるのは、「自律化」「電動化」「垂直離着陸」の3要件を備えていることです。
 世界各国での開発が進んでおり、既に実機での飛行試験に成功した例も複数出てきていることから、今後順調に開発が進んでいくことで、これらの要件は技術的に実現可能であると想定しています。一方で、法制度や社会の意識が技術の成熟にどこまで追いつけるか、という点が課題となるでしょう。法制度の点では国が今後「安全に飛ばす」という観点からルールづくりを進めることになると思います。また機体の安全性とともに、交通ルールづくりも求められます。そして、社会の意識に関しては、常時、空を乗り物が飛んでいることへの不安を取り除き、国民が受け入れられるようにしなくてはいけません。これらが今後乗り越えなくてはならない壁と言えそうです。

ヘリコプターとは違うのでしょうか。

 概念的には似ていますが、大きな違いは動力源です。ヘリコプターはエンジンで動力を生み出している一方で、空飛ぶクルマは、「電気推進」が主流になると考えられます。さらに、「自律型」ということでパイロットが不要となります。この二つの違いにより、空飛ぶクルマは結論としては低コストかつ身近な移動手段になり得る潜在能力を持っていると考えています。
 具体的には、電気推進になることで、エンジンと比べて部品点数が少なくなり、整備項目が減ると想定されるため、保守・整備コストが低減されると考えられます。また「自律型」となりパイロットが不要になる結果、運航コストの低減も期待できます。電気推進はエンジン音ほど騒音がないので、街中での利用が増えることも想定されます。

【想定される「空飛ぶクルマ」のイメージ】

自動車との技術的な違いはありますか。

 空飛ぶクルマを自動車と比較した場合、技術分野で共通点があると考えられますが、「空を飛ぶ乗り物」であるという特性上、航空機に使用されている技術も多く取り入れられることになると考えられます。例えば、機体構造としては軽量かつ剛性の高い素材が求められるでしょうし、空力特性を踏まえた上での設計が必要になります。また、自律飛行を可能とするための機体制御には自動車の自動運転と異なり、3次元での解析が求められるほか、風向き等の気象条件の解析も必要になると考えられます。更に完全自律飛行を達成するためには、機体と管制システムとの間の無線通信を常に継続させるための技術や、仮に通信が断絶した場合の自動着陸等の安全設計が重要になってくると考えられます。

どういう場面で活躍しそうですか。

 アメリカの配車システム大手のウーバー・テクノロジーズ(UBER)をはじめとして、世界中で様々な事業者が、空飛ぶクルマを活用した具体的なサービスの開発を進めていますが、特に米国においては、都市部の渋滞問題の解決に活用するという構想が多く見られます。ただし、アメリカと日本では渋滞のレベルが異なるため、必ずしもアメリカと同様の活用方法が当てはまるとは限りません。例えば日本においては、都市部での利用のみならず、離島・中山間地域等の交通が不便な土地での利用や、災害時の利用なども考えられると思います。この点、国や地域の現状の交通インフラの課題等から発生する具体的な需要に応じて、様々な用途が生まれてくると思います。

更に具体的な利用場面を考えてみたいのですが。

 都市部で考えると、典型的な利用場面として考えられるのが空港から目的地までの移動です。まずは、航続時間が20~30分の距離での活用がイメージしやすいかと思います。
 既存の交通機関を利用すると渋滞等の要因で遅延が見込まれる際に、活用される余地があるのではないでしょうか。また、交通機関を使うと、いくつも路線を乗り継がなくてはならず、時間がかかるけど、直線距離ではさほど離れていないルートでも有望だと考えています。空飛ぶクルマであれば、最短距離を飛ぶことができるので、大いに時間短縮効果があるためです。
 そして地方部で考えると、特に病気や災害など生命に関わる事態における緊急搬送・輸送時での活用が期待されるでしょう。日本には多くの離島があり、移動が不便な地域や、近くに病院がない地域もあることから、その有効性が期待されます。今後、空飛ぶクルマが普及し、機体価格・サービス価格が安価になっていけば、日本各地に空飛ぶクルマが常備されて、災害時の避難用や、医療用などに活用される未来がやってくるかもしれません。

今後の法整備で論点となりそうなことは。

 現在、各国において空飛ぶクルマの規制に関する議論が活発化していますが、「空飛ぶ乗り物」であるという特性上、規制は行政が検討することになるでしょう。具体的な規制は日本でいう「航空法」のような航空機関連の規制を応用したものになることが考えられます。
 論点としては、機体の安全基準や自律飛行・通信に関する技術標準はもとより、飛行ルートや離着陸エリアに関するルールや騒音防止のためのルールなどが考えられます。更にはクルマの自動運転の領域と同様に、悪意ある「ハッキング」の事態を想定したネット上の危機管理に向けたルールも重要だと考えます。この分野では、既に産業において開発が進んでいるネットとモノをつなぐ「IoT」関連の規制動向が参考になると思います。
※後編は10月18日(金)に公開予定です。

たにもと・ひろたか 2008年京都大学法学部卒業。2010年東京大学公共政策大学院修了、デロイトトーマツコンサルティング入社。約10年にわたり、一貫して航空宇宙・防衛分野の民間企業・官公庁をクライアントとして、中長期戦略策定、新規事業戦略策定、サプライチェーン効率化、プロジェクトマネジメント強化等の領域におけるコンサルティングサービスを提供する。近年は、「空飛ぶクルマ」の実現に向けた官民双方への支援に従事。
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