トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.28

日本の自然再発見!アウトドアで暮らしを豊かに

近年キャンプブームが再熱している。キャンピングカーの市場は年々成長しており、昨年は一人でキャンプを行う「ソロキャンプ」も新しいアウトドアスタイルとして注目された。また国営ひたち海浜公園のネモフィラがつくる絶景がSNSで知れ渡り、茨城でも有数の観光スポットとなった。新型コロナウイルスの感染拡大にともなう外出自粛も経験したことで、より一層高まる自然に触れ合うことの価値。アウトドアに魅了される人々への取材を通じて、生活者の心境の変化や新たなライフスタイルの可能性を探る。

Angle C

前編

自然豊かな国営公園 地域の憩いに

公開日:2021/4/27

国土交通省都市局公園緑地・景観課

国営公園整備係長

田中 希依

新型コロナウイルスの影響禍で外出自粛やソーシャルディスタンスが叫ばれるなか、自然の中で過ごす時間を楽しむ人が増えてきた。全国に17カ所ある国営公園は広々としたスペースに、自然とさまざまな施設を備え、近年、利用する年齢層も使い方も広がりをみせている。国営公園の整備や事業の進捗管理などを担当する国土交通省の田中希依・国営公園整備係長に、公園の多面的な魅力について聞いた。

国営公園が誕生した背景やきっかけを教えてください。

 全国で初めて作られた国営公園は、埼玉県にある「国営武蔵丘陵森林公園」です。これは、明治100年記念事業の1つとして、首都圏のレクリエーションや憩いの場を作ろうと1974年に開園しました。
 そのあと、国営飛鳥歴史公園(奈良県)や1977年に淀川河川公園(大阪府)ができました。国営飛鳥歴史公園は、昔から続く奈良県明日香村の里山景観や史跡の歴史的風土を守ろうという動きがあり、国としてこの地域を保全するために生まれました。淀川河川公園は交通網の発達という当時の経緯を受けて、広域的レクリエーションを目的に作られ、多くの人に利用されています。
 国営公園には2種類あります。1つはイ号国営公園で、広域的レクリエーションのために作る公園であり、1つの地方に約1つ作っています。淀川河川公園はイ号公園です。もうひとつは、ロ号国営公園で、地域単位にはこだわらず、国として保存活用すべき文化的資産がある、あるいは国家的記念事業のために整備する公園です。国営飛鳥歴史公園や国営武蔵丘陵森林公園などです。

【国営武蔵丘陵森林公園は東京ドームの約65倍の広さがあり、日本一大きなエアートランポリンのぽんぽこマウンテンが子供に人気】

※国営武蔵丘陵森林公園提供

国営公園の特徴ある施設や設備の紹介をお願いします。

 多くの公園にサイクリングができる場所があり、貸し自転車もあります。公園内は車が走らないため、安心安全に小さい子どもが練習することもできますし、大人も気持ちよく自転車で遊べます。
 北海道の「滝野すずらん丘陵公園」や香川県の「国営讃岐まんのう公園」には、オートキャンプ場がありキャビンも備えています。前者のオートキャンプ場は11月から4月までの雪のシーズンは閉めていますが、後者は通年で営業しています。また、デイキャンプ場は多くの公園にあり、現在、コロナ禍で制限はありますが、非常に人気があります。共用の炊事場があり、公園によっては材料を持たずに来ても、食材の予約をできるところもあります。
 水族館がある公園もあります。国営公園の中に水族館というのはなかなかイメージできないかもしれませんが、福岡市の「海の中道海浜公園」には「マリンワールド海の中道」が、「国営沖縄記念公園」には「美ら海水族館」があります。
 年間200万人が訪れる茨城県の「国営ひたち海浜公園」は、丘一面に咲くネモフィラで有名です。コロナ禍の以前には、海外からも観光客が訪れていました。去年のネモフィラのシーズンは緊急事態宣言で休園しましたが、ネモフィラの咲く様子をドローン撮影して公園のホームページに掲載していました。

【国営ひたち海浜公園のネモフィラは4月中旬から5月上旬が見ごろ】

※国営ひたち海浜公園提供

国営公園の環境保全のためにどのようなことに取り組んでいますか。

 公園の樹林部分などに希少生物が住んでいることもあります。それら生物の生育環境を保全する意味合いもあり、地域のボランティアの方と一緒に公園の自然環境保全の取組みを行っています。長野県にある「国営アルプスあづみの公園」は、オオルリシジミという貴重な蝶の生息環境になっています。公園を広場整備や遊具を作るためだけでなく、地域の貴重な生態系の生息場所として考え保全を行っています。また、今、あるものを保全するだけでなく、開発される前の状態に戻す活動をしているところもあります。例えば、米軍の飛行場跡地に整備された海の中道海浜公園では、開園時には海岸線が砂浜で木がない状態でしたが、ボランティアと協力して植林をして緑を増やす努力をしています。また公園によっては、畑や田んぼを作り里山の環境として保全していく活動も行っています。兵庫県の「国営明石海峡公園」の神戸地区では里山体験をメインテーマとしていますので、農作業体験ができます。国営アルプスあづみの公園は、そばで有名な長野らしいそば畑を作り、それぞれの公園には地域の特性を生かしたものがあります。

【国営明石海峡公園の「あいな里山公園」には、古民家、棚田、畑などの自然が広がっていて農作業や収穫体験ができる】

※国営明石海峡公園神戸地区 あいな里山公園提供

歴史や文化面での保存について教えてください。

 ロ号の国営公園はもともと文化的資産を保存・活用していく目的の公園であり往時の建物を再現したりします。反対に、石舞台古墳がある国営飛鳥歴史公園などでは、公園の周囲は手を付けられないようにすることで保全しています。歴史的建物を新しく再現することによって、国のプロジェクトとして往時の建築技法の担い手を次世代に育成していく役割も必要です。復元施設を作ることは伝統技法を継承していく面でも意味があるのだと思います。また国営平城宮跡歴史公園や国営吉野ヶ里歴史公園は建物を作るなど大規模な復元をしていますが、他の公園でも地域の古民家を移設して、江戸や明治時代の農村の雰囲気を味わえたり、そこで里山体験ができたりします。収穫した野菜を料理して食べたり、節句などの行事を開催したり、地域の歴史風土の保全、地域文化の伝承にも努めています。
※後編は4月30日(金)公開予定です。

【国営平城宮跡歴史公園の南門復原工事では宮大工の伝統技法が施されている】

たなか・きえ 1993年生まれ。東京都出身。2016年に国土交通省に入省後、2019年から現職。現在、全国に17箇所ある国営公園の整備等を担当。令和元年10月に火災で焼失した首里城の復元整備や明治記念大磯邸園の整備などを実際に工事等を実施する地方整備局等と調整しながら取り組んでいる。 趣味は旅行、観劇。
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