トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.24

温故知新!先人達が作ったレガシー

明治維新以降、この150年以上の間に政治・経済・文化などあらゆる分野が当時の人々の想像もつかないようなスピードで進歩してきた。しかし、現在でも連綿として受け継がれているモノは数多い。例えば、私たちは当たり前のように洋服を着たり、カレーライスやパスタなどの洋食を食べているが、この風習は明治維新後に取り入れられたものであり、大正時代に建築された赤坂迎賓館は現在においても、各国の国王や大統領を迎え、外交活動の華やかな舞台となっている。
また、2021年には幕末から昭和初期にかけて官僚や実業家として活躍し、「日本資本主義の父」と呼ばれた渋沢栄一を主人公とした大河ドラマが放送予定であるなど、近代史が注目を集めている。 そこで、近代から現代に至る歴史や文化などをソフト・ハード面から振り返り、未来にどう展開していくか探る。

Angle A

前編

食育から世界が見える

公開日:2020/12/18

学校法人服部学園服部栄養専門学校

理事長・校長

服部 幸應

2005年に食育基本法が制定され15年が経過した。制定には学校法人服部学園服部栄養専門学校の理事長・校長である服部幸應氏が大きく関わってきた。明治以来続いてきた日本の教育「知育、徳育、体育」に「食育」を加える必要性を訴え、食育基本法を実現させた。農林水産省の「食育推進会議」委員と「食育推進評価専門委員会」の座長も務めている服部氏は、「食育はSDGs(持続可能な開発目標)と重なる」と話す。食育活動を始めたきっかけや必要性などについて聞いた。

食育の重要性を訴えるきっかけはどのようなことだったのでしょうか?

 小学4年生の頃、東京都中野区に住んでおり、近所の沼でよく魚やザリガニを採って遊んでいました。ある日、友人達と沼で遊んでいると一人の男性が来て、遊んでいる私達の前で、大量の廃油を沼に捨てました。私達は皆、「そんなことしたらザリガニが死んじゃうよ」と言ったのですが。翌日見に行くと、沼にはたくさんのザリガニや魚が浮いていました。ショックでしたね。
 大学生の頃には、レイチェル・カーソンの『沈黙の春』を読みました。そこには『アメリカのカリフォルニア州の湖で多数の鳥が変死し、その原因は10年前に散布したDDT(強力な殺虫力を有する有機塩素系の化合物)だった。DDTが水面に落ちるとプランクトンの餌となり、そのプランクトンを魚が食べ、その魚を鳥が食べるという食物連鎖があるため、10年経ったときにはもう後戻りができない状態になり、鳥がどんどん死んでいった』ということが書かれていました。この本を読んだとき、少年時代にたくさんのザリガニが死んだ沼を思い浮かべました。あの小学4年生の頃から、なんとなくこのままでは地球が危ないと感じていたことを思い出し、全てのことが繋がっているとはっきりわかりました。これらのことを通じて食の安全が一番大事だと強く思うようになりました。

食育に関する活動はどのようなことをされているのですか?

 2005年に制定された食育基本法は、サスティナビリティ(持続可能性)、エコロジー(環境保全性)、ダイバーシティ(生物多様性)の3本柱で成り立っています。これに基づき、食育推進基本計画として第1次から第3次まで5カ年ごとの計画を進めてきました。現在は第3次で、「朝食または夕食を家族と一緒に食べる共食の回数を増やす」「朝食を欠食する国民を減らす」、「学校給食における地場産物等を使用する割合を増やす」「農林漁業を経験した国民を増やす」など15項目の目標を設定し活動しています。これは今年度で終了しますので、次の第4次5カ年計画について準備中です。
 我々が食育基本法で取り組んできた問題は、2015年に193の加盟国で合意された17の持続可能な開発目標「SDGs」と一致しています。そのSDGsの目標はピクトグラム(情報や注意を示すための視覚記号)で表現されていますが、これまで文字ばかりで表現されてきた食育推進基本計画も第4次ではピクトグラムを使って誰にでもわかりやすくなるようにと考え、現在試作中です。

【コロナ禍以前は年間約180回もの食育についての講演を開催】

※学校法人服部学園提供

食育が必要とされる理由はなんでしょうか?

 食育の話は大人を中心にしています。それは、大人が理解しないと子どもに繋がらないからです。親の背中を見て子は育ちますから、特に母親が食育を意識することが大事です。
 私が子どもだった頃、核家族は一握りだけでしたが、今、日本では約83%が核家族です。本来、祖父母と接することでお互い気遣いが生まれるのです。気遣いが嫌だから一緒にいたくないのではなく、この気遣いをすることによって人は優しくなれるのです。いじめや自殺、ニートの問題を考えたとき、家族という単位、できるだけ多くの人に接するということは必要な行為なのです。
 スペインやイタリア、北欧などでは週1回、おばあちゃんの家に集まろうという運動があります。イギリスではサッチャー首相のとき、家族みんなで食事をしようという運動を実施した結果ニートが減ったというデータがあります。日本でも月1回でいいからおじいちゃんやおばあちゃんと会って食事をするという積み重ねが必要です。それによって支え合う意識も育つと思っています。
 現在、日本の食料自給率は38%しかなく先進国の中では最下位です。60年前には自給率は79%だったのにここまで低下してしまった。農業就業人口も60年前には1454万人いたのですが、2019年には168万人まで減少しています。2018年のGDP(国内総生産)は、日本は世界第3位だけれど、1人あたりのGDPは26位になっています。日本はもっと足下をみる必要があります。
サスティナビリティ、エコロジー、ダイバーシティを組み合わせた食育の勉強をしているといろいろなものが見えてくるようになるのです。
※後編に続きます。

はっとり・ゆきお 1945年生まれ。立教大学卒業。昭和大学医学部博士課程学位取得。(公社)全国料理師養成施設協会会長。日本食普及親善大使。2005年に世界初となる「食育基本法」成立に尽力。農林水産省「食育推進会議委員」など役職多数。2015年フランス政府よりレジオン・ドヌール勲章シュヴァリエ受章。2020年旭日小綬章を受章。
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