トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.16-2

総力戦で挑む防災・減災プロジェクト~いのちとくらしを守る防災減災~

激甚災害が頻発している状況の中、災害から国民の命と暮らしを守るべく、今年1月に国土交通省はその総力を挙げて、抜本的かつ総合的な防災・減災対策を目指す「総力戦で挑む防災・減災プロジェクト~いのちとくらしをまもる防災減災~」を立ち上げた。国土交通大臣を本部長とする「国土交通省防災・減災対策本部」を設置し、防災意識社会の実現に向けた検討を進めるなどプロジェクトを強力かつ総合的に推進していく考えだ。今回は特集として、基本テーマの取りまとめ役を担う4名の幹部に話を聞く。

Angle A

前編

国も交通事業者も防災・減災の備えを

公開日:2020/3/31

国土交通省

国土交通審議官

藤井 直樹

大きな自然災害が発生した時、土砂崩れなどで道路や鉄道が不通になることもたびたび起きている。大型台風襲来時などに鉄道の運行を事前にとりやめる「計画運休」も行われるようになってきた。地震や台風などの自然災害が発生すると、交通関係にはどのような問題が起こるのか。また、防災のためにはどういう準備をしておく必要があるのか。交通関係の課題について、藤井直樹国土交通審議官に話を聞いた。

交通関係の防災・減災で最も大切なことは何でしょうか。

 激甚化、広域化、頻発化している自然災害ですが、季節的な要因もあります。夏から秋にかけては台風被害が想定されますし、今年は暖冬のため大きな被害はありませんでしたが、冬季には大雪被害が想定されます。一方、地震はいつ起こるのか分かりません。いずれにしても災害に直面したときに現場で対応するのは、交通サービスを担っている事業者ですから、その方々に普段から災害への備えをしてもらうよう、防災意識をしっかりと持ってもらわなくてはいけません。交通関係は中小規模の事業者も多くいますので、そうした事業者の方々にも災害への備えの重要性をしっかり理解していただくよう、行政としてもきめ細やかな対応が求められます。また、事業者の方々だけでなく、利用者の目線での対策も大変重要です。特に被災地の地域住民の方々への配慮は欠かせません。

大雨や地震などで鉄道や道路が不通になると、どのような問題が起こるのでしょうか。

 大きな災害が発生したとき、まず大切なのが緊急物資の輸送の確保です。全国各地からの支援物資を避難所などにしっかりと届ける。自治体が学校の体育館などを利用して被災地に設置する物流拠点も活用し、被災者の皆さんに確実に物資が届くようにしなくてはいけません。メインプレイヤーはトラック事業者となりますので、業界としっかり連携して体制を整える必要があります。
 また、高速道路や鉄道などが使えなくなった場合、生活や経済活動にも影響が出てきます。道路の場合は代替ルートを確保しやすいのですが、特に鉄道は橋が1本被災すると全く機能しなくなります。このため、道路、鉄道、他の交通機関等関係者が連携し、一刻も早い代替ルートの確保が大切になります。 

【令和元年台風第19号は鉄道網にも甚大な損害を与えた】

※画像は上田電鉄別所線での橋台流失の様子

鉄道の計画運休の狙いと課題は何でしょうか。

 災害の被害を最小にするため、交通機関が事前に運行中止を決める計画運休は2014年、台風第19号接近の際にJR西日本が京阪神地域ではじめて実施し、それ以来、首都圏など他の地域でも行われるようになりました。気象予報の精度が上がり、台風の規模や予想進路などがある程度分かるようになったことを背景に、それに備えて事前にリスクを減らそうというのが計画運休の狙いです。鉄道車両が途中で動けなくなったため乗客が一晩中車両の中で過ごさなくてはならなくなったり、駅間で多数の車両が停車してしまわないよう、あえて動かさずに事前に対応するということです。
 実際に行ってみると、いろんな問題があることも分かってきました。まず、外国人も含めて、利用者に対する情報を周知徹底することが必要です。何も情報が伝わらないまま突然、列車がすべて運休されてしまっては、利用者も困ります。どれくらい前の段階でどのように周知するか、そしていつ運行を再開するのか、そうした情報提供へのきめ細かい対応が求められます。一方で、大きな台風の襲来時には仕事を休むとか、テレワークにより自宅で仕事を行うといった社会的コンセンサスが、計画運休の円滑な実施の前提となるため、その醸成にも努める必要があります。各事業者と意見交換しながら、さらなる改善を進めていきます。
※後編に続きます。
【国土交通省では「総力戦で挑む防災・減災プロジェクト~いのちとくらしをまもる防災減災~」を立ち上げ、全部局が連携し、国民の視点に立った対策を夏ごろまでにまとめ、防災・減災が主流となる安全・安心な社会の実現に全力で取り組みます。】

ふじい・なおき 1961年兵庫県出身。83年運輸省入省。国土交通省総合政策局国際観光推進課長、自動車交通局保障課長、内閣総理大臣補佐官付参事官、航空局首都圏空港課長、内閣官房参事官、総合政策局政策課長、大臣官房審議官(鉄道局担当)、総合政策局公共交通政策部長、自動車局長、鉄道局長、大臣官房長などを経て2019年7月より現職。
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