トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.30

チャンス到来!?EVビジネス最前線

世界中で脱炭素に向けた取り組みが加速するなか、いよいよEVが拡大期を迎えそうだ。IT大手アップルなど異業種からの参入も相次いでいるが、日本経済の象徴ともいえる自動車産業は、100年に一度と言われるゲームチェンジに勝ち残ることができるのか。またEVの普及とともに自動化、コネクテッド、シャアリングといった分野の技術革新が進むことで、私たちの暮らしや都市の在り方はどう変容するのかを探る。

Angle C

後編

V2H・非接触給電 日本の強み活かせ

公開日:2021/6/25

株式会社日本電動化研究所

代表取締役

和田 憲一郎

ICTを活用した次世代の移動の概念であるMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)は、自動車業界に100年に一度の大変革をもたらそうとしている。世界各国でさまざまな交通機関をつなげるMaaSプラットフォームの開発が進んでおり、国内でも、国土交通省を中心に「日本版MaaS」の実現を目指した取り組みが進む。日本電動化研究所の和田憲一郎社長は「世界の先頭集団から離されてはならない。日本の自動車業界の底力が試されている」と語る。

MaaSやCASEに対応するため、日本のメーカーの取り組みが始まっています。普及の鍵はなんでしょうか。

 MaaSはフィンランドで始まったものですが、フィンランドを訪問し、運輸通信省などの要人らに、なぜフィンランドでこのような動きが始まったのかを取材したことがあります。フィンランドといえば、森と湖の国というイメージが強かったのですが、実はヨーロッパでベスト3に入るほどのデジタル先進国だったことにはたいへん驚かされました。もともとは、フィンランド政府がデジタルビジネスを推進する10の方針を打ち立てており、MaaSはその一つであったということでした。MaaSを実施するにあたって、政府が音頭を取って、データのオープン化を進めました。事業者間のサービスの相互互換性を担保するため、必要なデータの公開を義務付ける法律をつくったことが、成功の要因となったのです。日本でも、MaaSの必要性が叫ばれていますが、やはりデジタル化を推し進めるための法律をつくり、関係者とデータの共有化ができるかが鍵だと思います。

EVの普及による新たなビジネスチャンスや日本企業の強みは何ですか。

 世界であまり例がないのが、V2Xのビジネスです。Vはビークルの頭文字で、EVを何かとつなげて、電力のやり取りをする仕組みのことです。すでに日本では、積水化学工業などがV2H(ビークル・ツー・ホーム)として、EVを住宅とつなげるためのV2Hパワーコンディショナー(電流変換器)を軸にビジネスを展開しています。EV蓄電池の電力を家庭用電力に利用するV2Hの仕組みは、世界各地で発生している地震や洪水などの災害時の非常用電源としても期待されています。高齢化が進む都市の抱えるさまざまな課題に対して、最新のテクノロジーを活用し、持続可能な街づくりを進める「スマートシティー」プロジェクトはその集大成と言え、ICTとともに、EVなどのクリーンエネルギー技術に対しても、大きな期待が寄せられています。
 さらに、ワイヤレスでEVに充電できる「非接触給電システム」の開発も進められています。地上側の送電コイルと、自動車側の受電コイルにより、ワイヤレスで電力を伝送する仕組みです。例えば、このシステムを高速道路の出口側の走行車線に搭載すれば、将来自動運転が実用化された時、自動運転車の専用レーンとして活用することが可能になります。長距離ドライバーの人手不足問題を抱える運送業や物流業の生産性を飛躍的に向上させることが可能になります。

【スウェーデンのゴットランド島ではEVの走行中に無線充電できる道路が作られた】

※ElectReon提供

100年に一度の大変革の中で、日本の目指すべき道、産官学の果たすべき役割について教えてください。

 日本で不足しているデジタル人材の育成は喫緊の課題です。中国では2014年、初めてのビッグデータをメーンとする国家級新区として、貴州省貴安新区が制定されました。2019年開催された「中国国際ビッグデータ産業博覧会」に参加して驚いたのは、そこでは、たった5、6年間の間に、デジタル系の大学が多数設立されました。データサイエンティストなども多く育成できるシステムができあがっています。中国全土でみると、さらに多くのデジタル人材育成の高等教育機関があり、デジタル人材の豊富さには圧倒されます。残念ながら、日本では、ビッグデータを処理・分析し、そこから新たな価値を生みだすことのできるデータサイエンティストを育成する学部を持っているのは滋賀大学など数えるほどしかありません。今後、デジタル人材を育成する学校・学部をいかに多数設けることができるかが重要です。

【データサイエンティストなどを養成する貴安新区の大学群】

※日本電動化研究所提供

最後に、読者へのメッセージをお願いします。

 日本の企業で働くビジネスパーソンは、情報に対し、あまりにも鈍感なように思います。世界で驚くべきニュースが報道されても、「へぇー」と感心するだけで、それに対して、自分自身が何かアクションをしようとか、企業として何かを行動しようという姿勢が少なくなってきていることをたいへん危惧しています。先頭集団にいればこそ、世界の最先端技術の方向性や、注目企業の戦略をいち早く知ることができますが、先頭集団から引き離され、第2集団、第3集団に吸収されてしまうと、先頭集団がどこに向かって走っているのかさえ、わからなくなってしまいます。マラソンであれば、コースが決まっているので、後塵を拝しても完走することはできますが、ビジネスでは道なき道を切り開いていく姿勢も求められます。激しい闘争心を持たなければ、世界から置き去りにされてしまうでしょう。日本のビジネスパーソン一人ひとりの能力は高いかもしれませんが、それを十分に使いこなせていない場合が多々あるのではないでしょうか。あえて厳しいことを言わせていただくと、もっと貪欲に世界の先端を走る集団に食らいついていく姿勢が大切だと思います。(了)

「F1」などの実況も手掛け、自らもテスラ・モデル3を運転するラジオDJのサッシャさんは、EVを「タイヤのついたスマートフォン」と形容。スマホの急速な進化を例に、EVの今後の高機能化の可能性を指摘した。ソニーグループで自動運転技術や新たなエンターテインメント空間を搭載したコンセプトEV「VISION(ビジョン)━S」の開発を率いる川西泉執行役員は、「EV化など車自体の進化に加え、自動運転や効率的な交通システムの実現は街づくりにまで発展する」と意義を強調した。三菱自動車時代に世界初の量産型EV「アイ・ミーブ」の開発責任者を務めた日本電動化研究所の和田憲一郎社長は「昨年から今年にかけてEV化の波が急速に押し寄せていると感じる」とする一方、「日本で不足しているデジタル人材の育成は喫緊の課題」と警鐘を鳴らした。
 次号のテーマは「ビジネスマン必携!?進化する白書」。各省庁の取り組みや、その背景となる社会の実態などをとりまとめて発行している白書。変化の激しい情報社会を生き抜くビジネスマンたちとって、白書はどのような利用価値があるのか。そのヒントを探ります。(Grasp編集部)

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