トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.30

チャンス到来!?EVビジネス最前線

世界中で脱炭素に向けた取り組みが加速するなか、いよいよEVが拡大期を迎えそうだ。IT大手アップルなど異業種からの参入も相次いでいるが、日本経済の象徴ともいえる自動車産業は、100年に一度と言われるゲームチェンジに勝ち残ることができるのか。またEVの普及とともに自動化、コネクテッド、シャアリングといった分野の技術革新が進むことで、私たちの暮らしや都市の在り方はどう変容するのかを探る。

Angle A

後編

自動運転で〝障がい〟ない未来へ

公開日:2021/6/11

ラジオDJ/キャスター

サッシャ

モビリティの大変革ともいえるEV(電気自動車)化の波。日本経済の象徴ともいえる自動車産業はこのパラダイムシフトに勝ち残ることができるのか。またEV普及とともに進むとみられる自動運転、コネクティッド、シェアリングによって、社会や私たちの暮らしはどう変わっていくのだろうか。

テスラ・モデル3に実際に乗ってみた感想を教えてください。また、特にエンジン車との違いを感じた部分はどこですか?

 加速に関しては、本当にEVはすごいです!ギアがないから加速の際の抵抗がなく、まるでジェットコースターで頂点から落ちるときのような加速です。その感覚はエンジン車だと、それこそスーパーカーにでも乗らないと体験できないでしょう。それと、EVは電池とモーターという、いわば大きなラジコンなので、エンジン車のような細かい部品がありません。部品が少ないということは壊れるモノも少ないということです。だから、機械があまり得意でないという人はEVの方がいいかもしれません。もちろん、現状ではEVには充電設備や航続距離など、まだまだ足りない部分はあります。
 前編で、EVのことを〝タイヤのついたスマートフォンやタブレット〟とも言いましたが、要するに〝家電〟なので全部が電気的に操作できるのです。例えば、スマホのアプリからドアのロックや解除ができるし、乗る前にエアコンを作動させて室温調整をしたり、降りた後で窓の開閉もできます。車内ではタッチパネルひとつで、いろいろなものを操作できて、止まっているときにはスマホを扱うように動画を見たりゲームができたりもします。クルマとして〝乗る楽しさ〟を追求していたのが自動車メーカーだと思うのですが、テスラは自動車メーカーではないので、むしろ家電製品として、どうやったら利便性が高くて楽しめるのか…という発想だと思います。EVのそういうところが家電好きの僕としては魅力を感じます。

【テスラ・モデル3の運転席でタッチパネルを操作するサッシャさん】

EVと相性が良いともされる自動運転をはじめ、コネクティッド分野などで今後、どのように利便性が向上するでしょうか?

 テスラはまだ自動運転に関しては、日本の道路事情に合わせていないと思います。国内の自動運転に関しては現状、日本のメーカーに〝一日の長〟があります。とはいえ、完全自動運転というのは、道路側のインフラも含めて、もう少し時間がかかると思います。一方、今はいろいろなものが所有ではなくシェアの時代です。自動運転が普及すれば、みんながクルマを1台ずつ所有するのではなく、同じ目的の人たちがシェアリングして、途中で乗ったり、降りたりするという社会が来る可能性があります。 昔、家族旅行の際に電車のボックス席でトランプをしたり、お弁当を囲んだように、クルマの中でもそういうこともできるようになると思います。
 あと、「いいなぁ」と思うのは、自動運転が普及すれば、年齢とか障がいの有無も関係なくなって、 社会やインフラ側の都合で 制限されてしまっている人たちの行動範囲が広がり、仕事などでも能力を発揮して活躍できる場がひろがっていく と思います。トヨタ自動車が未来型実験都市「ウーブン・シティ(Woven City)」でやろうとしているように、ITや人工知能(AI)を駆使した循環型の街で課題を全部完結させる、そのひとつとしてモビリティが存在するという社会になり得ると思います。
(※ウーブン・シティ=トヨタが静岡県裾野市で計画するITを駆使した未来型の実験都市。ロボット、AI、自動運転、MaaSといった先端技術を人々のリアルな生活環境の中に導入・検証して社会課題の解決を目指す。自動運転の技術を検証する網目状の道路を備えることから、WOVEN(織られた)を街の名前とした)
 モビリティが進展していくと、固定のオフィスも不要になり、クルマの中でいいだろうとかいうことにもなるかもしれません。自動運転が完全に施行されれば、電車同様に道路の車線も1本でよくなって、その分を緑に充てられたり、住宅用地が増えたりします。ひいては街自体が変わって、生活の仕方も変わっていくと思います。

政府は「2030年にEVの普及率20~30%」との目標を掲げています。

 EVはスマホと一緒で、放置していたら実際に走行しなくても電池が減ってしまいます(笑)。だから、こまめに充電できる環境が必要です。その意味で充電設備を中心としたインフラ面の一層の充実は欠かせません。また、技術面では航続距離をいかに伸ばすかという課題も現状ではあります。こうした問題は、まずは国家戦略として、オール・ジャパンで取り組む必要があるでしょう。
 歴史をひもとけば、移動手段は人類の進化の基本で、日本も戦後、自動車産業を中心に復興して、経済発展してきました。そのシフトチェンジがもう1回起きようとしているのです。その際、みんなで「どういう社会にしたいのか」を考え、それを海外にいかに共感してもらえるかがポイントになります。みんなが「こういう未来で 生活したい」と思えるシステムを日本が作り上げれば、必然的に日本型のモビリティ社会が世界に広がっていくと思います。日々の生活のなかでも、どういうモノを買い、どういう電源の電気を使うのか、クルマはどうするのか、カーシェアするのか、動力は何にするのか…などを1人ひとりが積極的に考えることが重要だと思います。

EVの未来と日本、そして日本の自動車メーカーはどうすれば勝ち残れると思いますか?

 EV化で一番のパラダイムシフトを起こそうとしているのは中国です。EVをきっかけに存在感を高めようとしています。ただ、日本やヨーロッパには、産業革命以降の歴史、社会としての蓄積があります。だから日本は、中国の良いところを取り込んでミックスするぐらいのしたたかさがあっていいと思います。日本人は勤勉だし、自然との調和や「すべてのものに魂が宿る」という考え方はEVに限らず、これからの時代にマッチしていくと思います。そこでうまくリーダーシップを取れれば〝日本型社会〟というものが、大きく世界に影響を与える可能性があると思います。
 日本はスマホでは世界をリードできませんでしたが、クルマではその教訓を生かして、自分たちのシステムの優位性を自負しつつも、井の中の蛙にならずに、世界の人たちが望んでいるものを作っていけばいいと思います。技術や品質を追求する余り、「こんなものを作ったら日本っぽくない」とか、「日本はこういうシステムなのだから」といったこだわりは持たずに、純粋に消費者がほしいというものを世に送り出すことが大切なのではないでしょうか。
 とはいえ、EVも発展途上だし、10年後がどうなっているかは、だれにもわかりません。スマホだって、また違うデバイスが出てきたら、それに取って代わられる可能性もあります。それはクルマも同じで、EVをはじめ、HV(ハイブリッド車)やFCV(燃料電池車)のどれが最終的な答えかはわからないし、それらを全部ひっくり返す発明があるかもしれません。なので、いろいろなものをミックスしている現在の政策は意外と間違っていないかも…と思ったりもします(笑)。

【今年の上海国際モーターショーで展示された中国製の小型EV。価格は50万円を下回る】

最後に読者にひとことお願いします。

 仕事柄、自分より、ひとまわりもふたまわりも若い20~30代のスタッフと接することが多いのですが、個人的に感覚が合う人が多いです。昔と違って、定時に躊躇(ちゅうちょ)なく退社したり、職業選択でも、給料がすべてではなく「何がやりたいか」「ちゃんと休めるか」などを判断材料にしていたりして、〝個〟が確立していると思っています。世界を見渡せば、カナダも40代が首相になったり、30代で首相という国もあります。だから、日本も、こういう人たちが早く引っ張っていってほしいと思っています。日本の未来は明るいと思います(笑)。(了)

インタビュー一覧へ

このページの先頭へ