トリ・アングル INTERVIEW
俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ
vol.21
宇宙ビジネス最前線!世界とどう戦う?
私たちにとって「宇宙」とはどんな存在だろうか?小説や映像などを通じてしかイメージ出来ない遠いものであるように思われがちなのではないだろうか?
しかし、今年6月にアメリカで世界初の民間企業による有人宇宙船の打ち上げが成功し、2022年には大分県で小型衛星を打ち上げる計画を明らかにするなど、宇宙を巡る動きが活発化している。こうした潮流の中、宇宙空間を利用したビジネスも現実味が増している。これまで宇宙産業と言えば、ロケットや人工衛星の開発といった分野ばかりに焦点が当てられていたが、最近では日本でも通信、観光、物流など広範な分野でベンチャーが相次いで立ち上がるなど民間主導のビジネスに注目が集まっている。世界では既に様々な分野で事業化が進められているが、日本は宇宙ビジネスで世界と渡り合うことが出来るのだろうか。その可能性を探る。
前編
普通の人でも宇宙に行ける時代に
公開日:2020/9/18
タレント
黒田 有彩
前編
2020年は「宇宙イヤー」とも言われている。7月にはNASA(アメリカ航空宇宙局)など世界各国から3機の探査機が火星へ打ち上げられ、日本の小惑星探査機「はやぶさ2」も年末に帰還を予定している。自らも宇宙飛行士を目指しつつ、動画投稿サイト「YouTube」で宇宙の魅力を伝える「黒田有彩もウーチュー部」を運営する、タレントの黒田有彩さんに話を聞いた。
宇宙に興味を持ったきっかけを教えてください。
5歳くらいのころに大好きだったアニメ「美少女戦士セーラームーン」がきっかけです。
セーラームーンにはマーキュリー(水星)やマーズ(火星)といった惑星の英語名が付いた戦士が登場していたのですが、母に名前の意味を聞いたら、図鑑の惑星が並んだページを開いて見せてくれました。そこには、地球が点みたいに小さく描かれているのに、太陽はページからはみ出すほど大きく描かれていたのです。普段見ている太陽は片手で隠せるくらいの大きさなのに。昔から身近なことにいろいろ疑問を感じる子どもだったのですが、「自分が見ているもの、感じているものはほんの一部で、外には大きくて見たこともない世界が広がっているんだ。宇宙ってすごい!」と思いました。
それから星を見たり、星座やギリシャ神話の本を読んだりするのも好きになりました。中学2年の春に、作文コンクールに入賞した副賞でNASAを訪問することができ、実物大のロケットを見て、実際に宇宙に行くこと、宇宙飛行士になることに興味を持つようになりました。
宇宙飛行士になれたら、何をしたいですか?
2008年に、当時は大学生で応募条件に満たしていなかったのですが、意欲だけでもお伝えしたくてJAXA(宇宙航空研究開発機構)の宇宙飛行士試験に応募した経験があります。スーパーマンではない、普通の人でも宇宙に行けるということを示す〝架け橋〟のような存在になりたいです。国費をつぎ込んで進める宇宙開発は、失敗してはいけないので、これまでは体力がありメンタルが安定している人が選ばれてきました。その後、宇宙で実験などをするため、科学者の毛利衛さんや、医師の向井千秋さんのような理系の知識を持つ人が選ばれました。宇宙飛行士像も変化するなかで、これからは宇宙開発事業も国から民間に委託される時代を迎えて、普通の人でも宇宙に行ける時代になると思うのです。
【宇宙服を身にまとう黒田さん】
今年は各国が相次いで火星に探査機を打ち上げるなど、火星探査イヤーとなっていますね。
これまでの火星探査では、探査機を送り火星がどんな場所であるのか情報を収集していましたが、今回は湖があったとされる場所に向かい、サンプルリターン(試料回収)をめざしています。昔からオカルト的にいろいろと想像されている〝火星人〟の痕跡が、いよいよ本当に見つかるかもしれません。地球ではない他の環境で生き続けている生物がいて、その姿を知ることができたら、生命の概念が変わるかもしれない。そう思うと、楽しみです。
火星にはもともと磁場や大気があり、地球のように水もあったのに、何らかの拍子でなくなってしまったとされています。もしかしたら火星は、地球の未来の姿に似ているのかもしれません。大きな視野で自分たちの「常識」を疑える機会になるかもしれないと期待しています。
火星移住計画についてはどうお考えですか?
火星は、1日の長さが地球によく似ていますが、大気がなく、強烈な放射線も降り注ぐので、ヘルメットや防護服が必要ですから、現状では夢物語に近いとは思います。ただ、実業家のイーロン・マスクさん※は、2050年までに人類を火星に100万人送ることを本気で考えています。彼は、再利用ロケットなど、誰もが絶対不可能だと思うことを現実にしている人なので、そんな彼が目指すなら、実現は不可能ではないと思えてきます。
私も、自分の知っていることと照らし合わせながらいろいろと妄想してしまいます(笑)。
地球から火星にロケットを打ち上げる大変さを思うと、「行きっぱなしになっちゃうかな」、あるいは、新型コロナウイルスの影響で外出自粛生活を経験して、火星へ行くには今の技術では半年くらいはかかるので、「火星への旅はすごいストレスだろうな」とか。
それでも、火星に降り立った人にしか分からない景色もあるんだろうと思うと、ワクワクします。火星に住むための技術が、地球環境を改善することにも役立つと思うので、歩みを止めてはいけないですね。
※同氏が創業した宇宙ベンチャー企業のスペースX社は、今年5月に民間企業として世界初の有人宇宙船の打ち上げに成功した。
【2016年7月、NASAのジョンソン宇宙センターを訪ねて】
地球外生命体の存在 についてはどう考えていますか?
銀河系の中だけでも、太陽のような恒星が2000億個ほどあると言われています。恒星の周りには地球のような惑星や衛星も無数にあります。さらに宇宙にはそんな銀河が無数にあります。天文学者のフレッド・ホイル博士は宇宙における最初の生命の発生確率について、「10の4万乗分の1」と表現していますが、宇宙の広さを考えるといろいろなところで生命は発生し、特別なことでもなんでもないんだろうなと思います。
一方で、そういう生命とコンタクトを取ることは、自分たちに与えられている時間と文明の長さを考えたときに、現実にはならないかと思います。地球でもほんの400年前までは、地動説は信じられていませんでした。ほかの星でも同じように生命が進化の道を歩むとして、文明の最盛期が一致して共有できることはものすごい奇跡です。自分の知っている物理学では、距離と時間の壁は越えられないと思うのです。
※後編に続きます。
前編