トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.14

「道」が変わる!新たなチャレンジ

私たちが日常的に使用している「道路」。近年、AIやIoT等の技術革新が進み、道路の建設やその維持管理にもこうした技術が活かされている。近い将来、道路整備がこれまで以上に進み、また、自動運転車や空飛ぶクルマが現実のものとなれば、既存の道路の位置づけも大きく変わることになるだろう。その時、道路空間をどのように活用していくのか。単なる交通インフラにとどまらず、オープンカフェなどコミュニケーションの場所としても、道路は大きな可能性を秘めているのではないか。

Angle C

前編

「道の駅」が進化 国民的な地域拠点へ

公開日:2020/1/31

筑波大学

名誉教授

石田 東生

「ソトノバ」編集長泉山塁威氏は「道路」という公共空間の新しい姿を語った。自動運転など自動車が発明以来の革命期にあるとされる中、道路についても、時代とともに使われ方が多様化しており、人と社会との関係を含めてそのあり方を見直す時期が到来しているといえる。今後、日本の道路はどこに向かうのか。道路政策に詳しい筑波大学名誉教授で日本大学特任教授の石田東生氏に話を聞いた。

道路と人と社会との関係を考えるうえで大切な視点とは?

 これまでの道路は歩行や車で移動するためのものとして考えられてきましたが、現在、私は、人やモノと地域を結び付ける「空間」や「機能」としての「道路」の役割が重要だと考えています。道路をどのように楽しい空間にするか。ただ通行するだけでなく、とどまることも楽しもうという考え方です。そういった意味で、人が歩いて楽しむことができ、にぎわいのある歩行者空間として道路を再生していくという視点が大切です。
 また、私たちは、先祖が守ってきた道路をはじめとする国土という資産を受け継いできました。その資産を守り、そして育てて、次の世代に引き継いでいくことが大切です。道路の整備については、限られた予算と資源の中で、順位付けを考えなければなりません。安心、安全面をはじめ、その地域の産業や雇用にかかわるものなど、さまざまな項目をどのように順位付けていくか。道路を地域の歴史をはじめ伝統や文化とどのように関連づけて考えるか。道路は、その地域にとってどんな価値があるか。非常に狭い範囲での経済的な効率性だけの評価にとどめるべきではないと思います。

緊急時における社会インフラとしての道路とは?

 道路は国土の社会インフラとして欠かせないものです。道路には多種多様な車両、人、自転車や乳母車、車いすなどのありとあらゆる移動手段が存在しています。そして災害などの緊急時には、救急車、介護サービス車、救援復旧車両、給水車、タンクローリーなどわれわれの暮らしと地域社会を維持するために必要な車両が特に重要になります。
 実際、阪神大震災の時には、地域社会に欠かせないそうした車両の緊急時の通行のあり方が注目されました。東日本大震災の時には、道路での以上のような災害時交通サービス機能のほかにも、災害時でも周辺より高い盛土構造の道路が避難場所となった事例や、道の駅の災害時拠点としての重要性が再認識されました。さらに、広域の道路ネットワークが代替経路としての効果を如実に示しました。被災により利用が制限された太平洋側の高速道路の代替として、日本海側の幹線道路が物資の輸送ルートとして機能した事例は記憶に新しいところです。このように道路はいろいろな形でまた機能で、柔軟かつ強靭(きょうじん)な使い方ができることがわかりました。これを推し進めると、被災地の復旧と復興のために、国内の幹線道路のネットワークが大切な機能を果たすことになります。このため、太平洋側と日本海側のダブルルートを確保するなど、国内道路網のダブルネットワークについての考え方が重要となります。
 さらに、今後も増加が予想される外国人観光客らが平常時にも災害時にも安心して利用できるように、道路標識の外国語表示をはじめ、デジタル情報を活用した多言語の道案内なども必要になってくるでしょう。

今後の道路のあり方を考えるうえで、注目する取り組みは?

 「道の駅」は、1993年の登録当初103か所でスタートしましたが、現在、1160か所まで広がりました。「道の駅」は時代の変化に沿って大きく変わろうとしています。「道の駅」は道路利用者への安全で快適な道路交通環境の提供と地域の振興に寄与することを目的として、休憩機能として24時間無料で利用できる駐車場とトイレを備えていること、道路情報などの情報発信機能、そして地域連携機能の3つが登録のための条件となっています。特筆すべきは、情報発信機能としては地域の観光情報、緊急医療情報などを提供している例もあること、地域連携機能として文化教養施設、観光レクリエーション施設などの地域振興施設を備えている例もあることなど、地域の特徴を活かしつついろいろな工夫をしており花が開いているところです。また、地域の特色を活かした特産品の販売コーナーも充実するなど、地域のにぎわいや生活の拠点としての役割がますます大きくなってきています。また、災害時の有効活用として注目されたのが、中越地震時の「道の駅」、「クロステン十日町」です。非常用の発電装置が働き、炊き出しもできました。東日本大震災では、「遠野風の丘」が自衛隊の後方支援基地になるなど防災拠点となり、大活躍しました。
 「道の駅」は、当初はドライブをされる方へのサービス施設と想定していましたが、現在では日常の買い物など生活拠点になりつつある「道の駅」が多くなっています。これからは、「第三ステージ」として、「道の駅」同士のネットワークを強化したり、観光スポットや大学などの地域機関と協力して地域の魅力づくりに貢献したりすることで、「道の駅」が地方創生の拠点に成長するでしょう。また、自動運転などの新たなモビリティ基地としての役割も期待されています。
 道路というネットワークで連結した「道の駅」は、今後、道路と人と社会との関係性のあり方を考えるうえで一つの答えを示していると思います。
※後編に続きます。

【震災時には災害拠点となった道の駅「遠野風の丘」】

いしだ・はるお 1951年大阪府生まれ。1974年東京大学土木工学科卒業。1976年東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。工学博士。1989年筑波大学社会工学系助教授、1996年筑波大学社会工学系教授などを経て現職。日本みち研究所代表理事、NPO法人日本風景街道コミュニティ代表理事。国土交通省社会資本整備審議会道路分科会会長・国土審議会委員、内閣府未来投資会議有識者委員などを務める。専門分野は、国土計画・都市計画・交通計画。著書に、『都市の未来(共著)』(日本経済新聞社)、『みち――創り・使い・暮らす』(技報堂)など。
インタビュー一覧へ

このページの先頭へ