トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.17

既存住宅の活性化が日本を救うか

全国で約850万戸と推定される空き家。依然として増加傾向にあるものの、空き家をリノベーションして住んだり、民泊やシェアハウス、イベントスペースなどとして活用したり、地方の既存住宅を利用して都心と地方の二拠点居住を楽しんだりするなど、いろいろと新たなニーズが生まれている。また、街づくりや地域の活性化を進めるうえでも、既存住宅の活性化はカギとなる。住まいとしてのほか、趣味や仕事の場として活かしていくことも考えられる既存住宅の資産としての価値を高めていくには、リノベーションによる大胆な工夫や仕掛けを行うことが有効だ。

Angle B

後編

「中古物件」情報網の本格整備を

公開日:2020/4/24

Little Japan

代表取締役

柚木 理雄

暮らすための空間だけではなく、人々が集まりにぎわいを生み出す空間としても期待される既存住宅。その一方で、利活用に当たっては、法律関係に関する様々な知識やノウハウが求められるなど課題も多い。既存住宅の利活用を進めていく上での具体的な問題点やアイデアとは何だろうか。

既存住宅を利活用していくうえでの課題を教えてください。

 まずは既存住宅を活用できる人材が不足しているということです。中古物件をみて「これならゲストハウスとして使えるね」という判断をし、実際に運営できる人が不足しています。また、そもそも貸してくれる中古物件が少ないということが挙げられます。空き家になっていても、「貸してくれない」「売ってくれない」「使わせてくれない」ケースが多いため、所有者との調整がうまくいった物件は使うことができるという状況で、相対交渉の要素が強いわけです。特定の物件売買などであれば良いですが、広く事業を展開しようとすると、適正な価格を反映した取引の仕組みが必要です。言い換えれば、中古物件が流通市場に乗ってこない状態が問題だと思います。

【全住宅流通量に占める既存住宅の流通シェアは14.5%にとどまっており、欧米諸国と比べると6分の1~5分の1程度と低い水準にある】

なぜ所有者は貸したがらないのでしょうか。

 たとえば「相続の問題があって、外部に使わせられない」というのであれば、そっとしておくしかないでしょう。しかし、多くのケースは、「仏壇があるから」とか「年に1回帰ってきたい」というような心情的な理由や、「家の中が散らかっているから」というような些細な理由だったりします。そういう物件は「空き家バンク」でも紹介されません。もし紹介されていても、条件のわりに価格設定が相当高く、「売る気が感じられない物件」であったりします。所有者にしてみれば「これまで投資もしてきたし、住み慣れた良い土地だし」と、価格をつり上げてしまうのでしょうが、これからは、現実的に、妥当な条件や価格で、借りやすい、買いやすい物件情報を流通させることが大事です。地域の自治体が売買や貸し借りの仲介役をしている場合もありますが、その多くは担当者が少ないため、思うに任せない状況です。
 実際に利用できる中古物件は、全体の中古物件のうちごく一部に過ぎないと思っています。その大きな原因の一つが、不動産は利用をしていないとすぐに傷んでしまい、せっかく利用出来る物件だったのが、放置をしている間にどんどんとその価値がなくなっていってしまっていることだと思っています。不動産は持っているだけで、固定資産税もかかりますし、傷まないようにするために風を通したり、庭の草を抜いたりするのも手間がかかり、維持を業者に依頼すればコストがかさみます。だから使わなくなったのであれば、時間とともに所有者への負担が累積するものです。しかし実際は、売却に踏み切ることができず、コストを出し続け、そのまま利用が難しい空き家になってしまいます。ぜひ、未来志向で考えてほしいと思います。

中古物件を活用する上で、役立つ制度はありますか。

 2018年の建築基準法改正で、物件の用途変更条件が緩和されました。これは非常に良い改正だったと思います。たとえば住宅から旅館に用途変更をしたいという場合、これまで100㎡以下の小さな物件の場合は、その手続きが不要でした。しかし現実では、100㎡以下の物件はあまりありません。今回の法改正で、「200㎡以下」まで用途変更に伴う建築確認手続きが不要となり、かなり多くの中古物件が利用しやすくなりました。一昔前の住宅は「建築確認」や「完了検査」の手続きを受けていない場合が非常に多いのですが、改めて別の用途で利活用する際に、変更自体が難しく、100㎡超の中古物件は、「やっかいな物件」として手つかずに放置されることが多かったのです。しかし「200㎡以下」に緩和されたことで、中古物件の利活用への門戸が広くなりました。
 また、2014年に制定された空家等対策特別措置法により、空き家を放置することで著しく保安上危険となる、または、衛生上有害となるおそれのある状態などの「特定空家等」に指定されると、所有者が然るべき対応を行わない場合は固定資産税の優遇措置の対象から除外するなどの処分ができるようになりました。法の枠組みができたのは良かったと思いますが、法適用の運用面での難しさを克服することを期待したいです。

【建築基準法の一部改正は中古物件の利活用をより一層促進することも目的としている】

一部で中古物件を活用したゲストハウス市場は飽和状態との声もありますが、別の活用法はないでしょうか。

  外国人の日本旅行ブームを背景に過剰投資が進み、宿泊施設は供給過多となっています。そこで、私たちは都市部で空きが目立つゲストハウスと、地方や郊外の中古物件などを結びつける「二拠点生活」を実現する「Hostel Life」というサービスをしています。このサービスは月1.5万円~で購入出来るホステルパスで、全国20カ所以上の施設に泊まり放題になるというものです。たとえば、東京に職場があるけど郊外に住んで通勤時間が長い人は、平日は東京都心部のゲストハウスに住んで、そこから通勤してみませんかというプランです。旅行者とも交流ができますし、宿泊費の出費も定期券代と比べれば、実質的な負担増は抑えられるのではないでしょうか。私たちが運営するゲストハウスの客層の1~2割は、こうした宿泊客です。また、そこから発展して東京の家を手放して、地方に住み、東京はゲストハウスで暮らすという人も出てきました。テレワークが増え、オフィスに毎日通わなくてよくなる方が増えていく中で、このような地方にメインの拠点、東京に二拠点目を持つような方も増えるのではないでしょうか。安価な物件が地方と都市部にあることで、トータルコストも東京で普通に住むのと同等かそれ以下で実現することができるプランです。
 もちろん、すべての人が二拠点生活に切り替わるわけではありませんが、価値観が多様化する中、これまでの通勤時間が長い生活を捨て、別の方法を模索している人は確実にいます。私たちもこうしたニーズを踏まえて地方の物件を更に開拓して、都市部の物件と組み合わせて、「二拠点生活」プランを拡充していきたいと考えています。

アイデア次第で中古物件の利活用の仕方が広がりそうですね。

 現在私たちは、東京都台東区と協力して、中古物件スペースを活用した「在日外国人と日本人をつなぐ場」づくりに取り組んでいます。在日外国人が地域社会に入っていくのは意外と難しいことで、ゴミ捨てや騒音のトラブルで町内会などと対立してしまうことも少なくありません。そこで、その地域の町内会等ともつながりがあるような、むかしからある場を「地域への入口」として無料のカフェを開いています。日本で増加する定住している外国人を孤立させずに、地域で取り込んでいくことは重要です。欧米では在留外国人と地元民との間に深刻な軋轢(あつれき)が生じているケースも少なくありません。日本にはまだ在住の外国人が少ないからこそ、共生を今から作り上げる余地があります。中古物件の場を活用し、外国人との交流の場を増やして、日本社会へと取り込んでいければと考えています。(了)

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