トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.16-2

総力戦で挑む防災・減災プロジェクト~いのちとくらしを守る防災減災~

激甚災害が頻発している状況の中、災害から国民の命と暮らしを守るべく、今年1月に国土交通省はその総力を挙げて、抜本的かつ総合的な防災・減災対策を目指す「総力戦で挑む防災・減災プロジェクト~いのちとくらしをまもる防災減災~」を立ち上げた。国土交通大臣を本部長とする「国土交通省防災・減災対策本部」を設置し、防災意識社会の実現に向けた検討を進めるなどプロジェクトを強力かつ総合的に推進していく考えだ。今回は特集として、基本テーマの取りまとめ役を担う4名の幹部に話を聞く。

Angle B

前編

災害のリスクを高める3つの問題点

公開日:2020/3/31

国土交通省

国土交通審議官

栗田 卓也

自然災害を未然に防ぎ、被害にあってもそれを最小限に抑える。そうした観点から防災減災に資する国土・地域づくりが求められているが、今の日本を取り巻く環境は非常に厳しいものがある。具体的にはどのような問題に直面しているのだろうか。栗田卓也国土交通審議官に話を聞いた。

国土・地域づくりにおける長期的な防災・減災のための課題は何でしょうか。

 問題点は大きく分けて三つあると思います。最近の気候変動、少子高齢化・人口減。そして地域による人口格差、すなわち東京に人口が一極集中していることです。
まず気候変動についてです。2013年の国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告によりますと、地球温暖化に対して世界規模で厳しい施策をとった場合でも、21世紀末は20世紀末と比較して、気温は0.3度から1.7度上昇すると見込まれています。日本では0.5度から1.7度上昇するというものです。もし厳しい施策がとられない場合には、気温は3.4度から5.4度も上昇します。また、雨の降り方も変わりつつあり、ある地域に集中して短時間で強い雨が降る、いわゆるゲリラ豪雨もこれから広範囲で起こるようになるでしょう。必然的に災害が発生する危険性も増大します。
次に人口減についてです。日本の人口は1945年の終戦からピークとなった2008年まで5000万人以上急増しました。厚生労働省(国立社会保障・人口問題研究所)の試算によりますと、これが2050年までに20%以上減る見通しです。これだけ短期間の間に人口が強い勾配で増加し、強い勾配で減少することは世界の歴史の中でこれまでなかったことです。日本はそういう特異な社会変動のさなかにあるのです。人口増加が見込まれているのは都市部と沖縄のごく一部で、人口規模が小さいところほど減少します。存続自体が危惧されている集落(人口9名以下かつ高齢化率50%以上)は2015年現在で2353集落ありましたが、それが2045年には9667集落と4倍に増えます。同様に、超高齢化集落(集落人口の3分の2以上が65歳以上)は4059集落(2015年)から2万7119集落(2045年)、子供がいない集落は9168集落(2015年)から3万192集落(2045年)に増大します。人口が減り、お年寄りばかりになると生活そのものにも大きな影響が出てきます。たとえば雪国の集落の中では、冬季の雪下ろしができません。お年寄りが無理して雪下ろしをして事故にあうということも増えています。高齢化は防災の観点からもリスクを増大させることになります。
そして人口移動の問題についてです。東京圏から地方へ人口が移動したのは、バブル崩壊後のごく一時期だけです。それを除いて、東京への一極集中が一貫して続いています。それは人口が少なくなる地方だけの問題ではありません。2015年の東京圏においては、居住地域の16.4%が少子高齢化地域(若年層が10%以下かつ高齢者が40%以上)となっていましたが、これが2050年には48.6%とほぼ半分になる見通しです。東京では要介護者が大幅に増え、高齢者対策が急務となります。災害時にどのように援護するかも大きな課題です。
※後編に続きます。
【国土交通省では「総力戦で挑む防災・減災プロジェクト~いのちとくらしをまもる防災減災~」を立ち上げ、全部局が連携し、国民の視点に立った対策を夏ごろまでにまとめ、防災・減災が主流となる安全・安心な社会の実現に全力で取り組みます。】

【国民の多くは災害リスクが高い地域に居住しており、危険と隣り合わせだ】

くりた・たくや 1961年大阪府出身。84年建設省入省。国土交通省国土計画局大都市圏計画課長、都市局まちづくり推進課長、復興庁統括官付参事官、大臣官房人事課長、大臣官房審議官(総合政策局、土地・建設産業局担当)、都市局長、総合政策局長を経て2019年7月より現職。
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