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トリ・アングルINTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.23半島は日本の台所!

公開日:2020/12/1

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[ 後編 ]

世界のゲームチェンジは半島振興の勝機

東京大学工学系研究科 未来ビジョン研究センター教授坂田 一郎

坂田一郎・東京大学教授は、新型コロナウイルスの感染拡大が終息した後、以前から起こっていた価値観の変化や新たなテクノロジーの登場によって、ゲームチェンジが本格化すると指摘する。半島地域の住民が持っているサステナビリティ(持続可能性)や倫理的な考え方などの潜在的な価値を共有する人々の受け皿づくりを進めることで、半島振興のチャンスが到来する可能性が高まるという。

地域の将来を牽引(けんいん)する企業として「コネクターハブ」企業を提唱されていますね。

 コネクターハブ企業をひと言でいうと、地域内の企業を束ねて取引の核となりつつ、域外の大市場や異業種の企業とも取引を行うことで地域経済へ大きな貢献をしている企業です。コネクターハブ企業として求められるのは、地域を代表して、「遠距離交流」と「近距離交流」を担うことです。「遠距離交流」とは自分と違うものを取り入れることを指し、地理的な距離だけではなく、心理的距離、ネットワーク上の距離などさまざまな意味を含み、自分から遠くのもの、つまり多様で異質な要素を取り入れて、イノベーションにプラスに作用させる取り組みです。他方、「近距離交流」とは、普段から深く付き合っている人たちとの交流です。信頼関係ができており、いざというときに頼りになります。イノベーションを起こすには両方の要素の組み合わせが重要です。多様性を取り込むことによって、オリジナリティのある製品を作り出すと同時に、高品質な製品・サービスを着実に作り出すために、日頃から信頼する近距離の人たちの協力も不可欠です。「コネクター」は遠距離交流の程度、「ハブ」は、近距離交流の程度をそれぞれ示します。「コネクターハブ」は、両方を一緒に計測できる指標のようなもので、両者の総合力がイノベーションを進めるうえで重要なのです。

半島振興ではどのような企業が「コネクターハブ」の役割を担うのですか?

 典型的な半島振興のコネクターハブ企業とは、地元の町で、何種類かの食材を調達して、自社でそれらを組み合わせて加工し、大きな市場に製品として出荷しているような企業です。大市場の動向やトレンドを把握していて、その情報が地域内にもたらされています。自社のビジネスの成功によって、食材を提供している他の地元企業も潤います。小さな地域企業は、大市場の動向を知るアンテナはないけれども、コネクターハブと取引していることで間接的に情報を得ることができます。地場の中小企業では専門の営業担当を持っていることは稀で、営業と製造を掛け持ちでやっている場合が多いのです。そのなかで、専門の営業部隊を持ち、都会の企業や市場と取引している地域内の中核企業は、その地域にとってはたいへん貴重なコネクターハブ企業です。半島の中にコネクターハブ企業がいない場合でも、半島の近くの中心的な都市に存在します。サプライチェーン(供給網)のモノの流れを見ると、小さい町の小企業は近隣の中心都市に立地する中核企業にいったんモノを運び、そこで、最終製品に加工されてから大市場に流れていくという構造ができています。産業政策を担う地元の行政が、行政区域内の企業と話しているだけではだめで、周辺のコネクターハブを見つけて、地域企業が持つ潜在が活かされるよう、コミュニケーションしたり、サポートしていくことが重要です。つまり、広域連携を進めるためには、行政区域の枠を超えて、経済的な取引の実態をよく見ることが不可欠です。

【コネクターハブ企業の役割イメージ図】

※中小企業白書(2014年版)より

「コネクターハブ」が機能するには、何が必要になりますか。

 地方創生の方策を具体的に考える際には、政府の「まち・ひと・しごと創生本部」が、地方自治体によるさまざまな取り組みを情報面・データ面から支援するために平成27年4月から提供を始めた「地域経済分析システム(RESAS(リーサス)」を活用すると効果的です。自分の町のことは知っているが、隣の町のことは余り知らないという地方自治体は意外と多く、地域内外の企業との取引を示す具体的なデータを簡単に取得できるリーサスの活用によって、どういう広域連携や経済的な連携を進めればいいのか、どこにコネクターハブ企業が存在しているのかといった「気づき」を得ることができるはずです。リーサスの開発に携わった者として、ぜひ、そういう形で積極的に活用してもらいたいです。

半島振興のため、政府や地方自治体、または大手企業などに期待される役割は何でしょうか。

 半島振興は、企業の努力だけでは難しく、行政の役割は極めて重要です。都会に対してマーケティングをするときに、強い地域ブランドを確立している、自分たちの地域でしかできないモノや技術を囲い込めている、地域に共感性の高い物語がある、あるいは環境の持続可能性がうまく保たれているといった、他の地域とは違う特徴を見出すことが重要になります。そういう様々な強みを地域のプラットフォームが共通資源として集積していると、企業は活用しやすいからです。地域がまとまることで独自の魅力が形成され、維持され、囲い込まれます。差別化された魅力をそこに作り出して維持するようなプラットフォームづくりが、政府や地方自治体の役割です。さらに、そういうコミュニティー単位の努力と、コネクターハブの力とがうまく組み合わさることがカギになります。課題として、コネクターハブの役割を実際に担っている企業が、自分たちの果たしている役割に気付いていないことがよくあります。コネクターハブ企業に自覚してもらうことが大事で、地域において期待されている役割を意識的に果たしてもらうことで、半島振興がより効果的に実現するからです。経済産業省が「地域未来牽引企業」を選定しているのもそのためで、地域の特性を活かして高い付加価値を創出し、地元の事業者などへの波及効果を及ぼすことで、地域の成長発展を牽引する役割を期待されています。私も地域未来牽引企業の選定に協力しましたが、地域における「コネクターハブ」の役割をぜひ自覚してもらいたいという気持ちを持っています。

半島振興でテクノロジーに期待することは何でしょうか?

 5G(第5世代移動通信システム)やAI(人工知能)など通信技術を活用したテクノロジーの活用に関しては、半島地域と都会の格差は大きくありません。これだけ、高密度に光ファイバー網が全国に張り巡らされている国は世界的にも少ないからです。これまで、半島地域はあらゆるインフラで都会に比べて不利な状況でしたが、格差の小さい通信インフラをマーケティング等に効果的に活用すれば、商機は十分にあります。
 Maas(次世代移動サービス)やIoT(モノのインターネット)に関しては、省人化・自動化がキーワードになります。人口減少が進む日本の中で、もともと人口が少ない半島地域にとっては、利便性や安全性を損なうことなく省人化を実現するテクノロジーへの期待は大きいといえます。例えば、台風や大雨の災害のとき、IoTを活用した河川の管理システムがあれば、センサーで危険を察知できるので、人が見に行く必要はありません。漁業や農業ではIoTを活用することで、生産物の質を落とすことなく省人化を図ることもできます。Maasに関していえば、自動運転のバスが高齢者を近隣の都市まで運んだり、観光客に、地域内を回遊できる便利で楽しいモビリティを提供することも可能です。限られた人的資源を有効活用し、生産性を上げるためには、料理など人手が欠かせない「もてなしのサービス」に集中的に人的資源を投入するべきでしょう。

【京急電鉄とscheme vergeが観光型MaaS「三浦Cocoon」のサービスを10月から開始。地域が一体となって三浦半島観光を推進している】

※京浜急行電鉄、scheme verge提供

最後に読者へのメッセージをお願いします。

 今、世界中で起こっていることは、ゲームチェンジです。このゲームチェンジは、半島地域にとってはプラスに働くと考えています。そのことを認識すれば、商機(勝機)を見出すことができるはずです。通信技術の重要度の高まりがインフラ面での都会との格差を縮小させてくれるとともに、世界中の人々がサステナビリティを意識した考えや行動をより重んじるようになることで、半島地域が持つ社会的な価値は高まります。従来は難しくて、あきらめざるを得なかったことも、今はできることがたくさんあるのです。地方創生の方法論としては、量的拡大を求めるのではなく、希少性が生み出す価値で戦うことであり、希少なものは希少のままで良いという発想の転換が求められていると思います。半島地域の自然環境や人々のなかでは、世界的にみてもサスティナブルで公共性が保たれていて、信頼関係が大事にされています。例えば、伊勢志摩サミットの直前に沖縄で開催された会合で、鈴木英敬・三重県知事が紹介した「地元の海女(あま)さんたちが身に付ける潜水具は一家に一台しかない」という話は象徴的です。その理由は、潜水具を付けると魚介類を取りすぎてしまうからだそうで、行政が規制するのではなく、地元のコミュニティーが自主的にきまりを設け、みなが守っている約束だそうです。半島地域が持っているサステナビリティに対する感度を示すエピソードです。公共性や倫理観がより強く求められるようになってきた社会の中で、サステナビリティを維持する行動が自律的にできている地域は価値が高いのです。(了)

編集後記

 アップアップガールズ(2)の鍛治島彩さんは「半島の優しい景色と、おいしい海鮮料理が心を癒してくれた」との実体験を語ってくれた。そして、若者の視点から半島の魅力を発信して伝統を継承するためにもSNSの活用が重要だとしている。マグロ水産資源を核とした半島振興などに取り組む「津軽海峡マグロ女子会」の青森側とりまとめ役、島康子さんは「観光を点から面に広げる」ことで、観光客が点で留まらず、回遊できる環境づくりが必要だと指摘した。また、東大・未来ビジョン研究センターの坂田一郎教授は半島振興に向けて「付加価値を高めること」が必要だと語るとともに、コネクターハブ企業が重要な役割を果たすことを強調した。
 次号のテーマは「温故知新」。明治維新以降、約150年の間、政治・経済・文化など、あらゆる分野で当時の人々の想像もつかないようなスピードで物事は進歩し、さらに加速している。しかし、現在でも連綿として受け継がれているモノは数多い。歴史や文化などをソフト・ハード面から振り返り、未来にどう展開していくか探るため、3人の識者に話をうかがいます。(Grasp編集部)