トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.42

ドローンで変わる!? 日本社会の未来像

2022年12月5日、ドローンの国家資格制度がスタートするとともに「レベル4」飛行が解禁となりました。これは、人がいる場所でも操縦者の目視外での飛行が可能ということ。今まで認められていなかった市街地上空を通るルートでの長距離飛行もできるようになり、運送業界をはじめ、さまざまな業界からの注目度が高まっています。そんなドローンの開発・活用の最前線にいらっしゃる方々に、日本におけるドローンの現状、今後の課題などについてお話をうかがいました。
無人航空機(ドローン)の新制度についての詳細はこちらをご参照ください。
(国土交通省無人航空機総合窓口サイト https://www.mlit.go.jp/koku/info/index.html)

Angle C

後編

どこでも郵便物が届く安心のために、今後も「ラストワンマイル」でドローンを活用

公開日:2023/3/3

日本郵便株式会社 オペレーション改革部

係長

伊藤 康浩

 日本郵便によるドローンによる配送トライアルは、その後も三重県熊野市などで行われ、各地の状況に応じた配送の検討が続いています。三重県熊野市のトライアルでは、実用化を見据えて、1つの集落すべてに「面」で配送を行うことを目標として、すべての住民の方の敷地内に小型の「受取機構」を置かせていただき、そこへドローンで空から「置き配」をするというものでした。さらに2022年12月、同社は株式会社ACSL(国産産業用ドローンメーカー)との業務提携で新たなドローンを開発しており、2023年度以降の実用化を目指すと発表しました。
 また、同時期にドローンの「レベル4飛行」を可能にする航空法改正も行われるなど(※)、ドローンによる配送が実現する条件は整いつつあります。同社オペレーション改革部係長の伊藤康浩さんに、新機体による「レベル4飛行」も含めて、今後の実用化の見通しなどを伺いました。
 ※2022年12月5日、ドローンをはじめとした無人航空機の「有人地帯(第三者上空)での補助者なし目視外飛行(レベル4)」を認める改正航空法が施行。

無人航空機(ドローン)の新制度についての詳細はこちらをご参照ください。
国土交通省無人航空機総合窓口サイト<https://www.mlit.go.jp/koku/info/index.html

2022年12月にドローンの新たな機体を発表されましたね。

 2021年からのACSLとの業務提携による成果の1つです。新機体は、人がいる場所の上空を目視外飛行する「レベル4飛行」での運用を前提に開発中で、2023年度以降の実用化を目指しています。
 空力シミュレーション(※)などにより空力最適化を行い、高い飛行性能を持たせ、従来使用していた機体と比較すると、最大積載量が1.7kgから5kgに増え、最大飛行距離は10kmから35kmに伸びるなど、性能が大幅に向上しています。また、荷物の脱着が容易になるように、機体上部からも荷物が収納できる機能も搭載予定です。 そして何より最大のポイントは、親しみを感じてもらえるようなデザインです。人は何かを見ると人間の顔に見立てて親近感を感じるということも多いと思いますが、意識的に「顔」を作るなどの工夫をしています。この点はACSLも重要だと考えており、両社でこだわりを持って開発を進めている部分です。
 ※空気の運動作用や空気中を運動する物体への影響を調べる実験。

2020年12月に発表した開発中の新機体(写真提供:日本郵便株式会社)。

同時期に、「レベル4飛行」が可能になる航空法改正も行われました。

 ドローンによる配送は航空法などによる規制があります。当社は、国土交通省や経済産業省など関係の省庁とも連携して、今後もドローンによる配送の実用化に取り組んでいく予定です。
 今回可能になった「レベル4飛行」では、目的とする飛行に応じた「機体認証」と、「無人航空機操縦者技能証明」(※)の取得が必要ですが、機体認証については前述の新機体でも取得する前提ですが、これは国産の産業用ドローンメーカーでも最先端を行くACSLと提携している強みといえるでしょう。
 今回の法改正では、国土交通省や国の登録を受けた検査機関が安全基準への適合を認めた機体を使用し、同様に国や無人航空機操縦士試験機関が認めた所定の手順で技能証明を取得した操縦者が操作することができるということになります。これは、車の運転免許を持っている人が車を運転することができることと同じで、これが、社会全般に広く認知されることで、ドローンが、ひいては、ドローン配送が社会に受け入れて貰い易くなる素地が期待できます。
 ※無人航空機操縦者技能証明は、無人航空機を飛行させるのに必要な知識及び能力を有することについて、学科試験、実地試験及び身体検査に合格することにより国土交通大臣から証明を受けるもの。

今後、離島や過疎地での配送はドローンが主流になるのでしょうか。

 将来も持続可能な配送サービスの実現に向け、一部の中山間地域ではドローンなどを活用することになるでしょう。一方で、離島では、当社の配送物も含めてある程度の規模でまとまった輸配送が必要なので、当社としてはドローンを使うよりも、まずは既存の物流ネットワークをどう活用するかを考えることになると思います。
 他方、都市部ではドローンによる配送は技術的な面と、将来的な効率化の効果の面で現在のところ難しいと考えています。代わりに、配送ロボットを使った都市部のマンションやビルなど建物内での配送や、定期的なポストからの取り集めの業務での活用を検討しています。)

ドローン配送を本格的に展開される上での課題は何でしょうか。

 新機体は最大積載重量や飛行距離の向上など着実に進歩していますから、機体に関する技術面の課題は次第に解消されると思います。一方で、実用化を拡大するための大きな課題の1つは運航環境面にあります。ドローンの長距離での遠隔操作には携帯電話の電波の利用が一般的になっていますが、携帯電話の基地局は「人口カバー率」を前提に設置されているため、中山間地域では特に「面積カバー率」が不足しています。携帯電話の電波が届かないエリアをカバーできる対応策の実現が待たれます。
 また、制度整備の面では、機体認証や技能証明の取得などで安全性を確保しながら、運用面での実績を積み重ねつつ、1人の操縦者による複数のドローンの同時飛行の実現が待たれます(※)。そうなると、より少ない操縦者で、遠隔操作により全国の複数のお届け先へ配送することが可能になります。極論すれば、在宅勤務の社員でもドローンによる配送業務に携わることができ、より効率的な運行が可能になります。
 そして、より難しい課題は、ドローンが飛び交う風景が社会にとって当たり前になり、地域の方に安心してドローンでの配送を受け入れていただくことだと思っています。そのため、まずは住民の皆さんへのご説明やその後のフォローを確実に行い、ドローン配送を安心して利用していただける環境を作ることにリソースを注いでいます。
 幸いなことに、私たちは150年間という郵便事業の積み重ねにより、地域の皆さんからの信頼をいただいています。ドローンでのトライアルのご相談をするときも、「これまでバイクでお届けしていましたが、その一部をドローンに替えたいと考えています」とお伝えすると、ほとんどの地域の方が「いや毎日来るのは大変だろうからドローンでもいいよ」と対応していただけました。
 これまで毎日丁寧な仕事をして、地域の皆さんに信頼されているからからこそのやり取りだと思いますし、当社の強みのひとつだと実感しています。
 ※現在の航空法では、1人の操縦者が同時に複数の無人航空機を全く異なる飛行経路でそれぞれ飛行させることは認められていない。

海外で参考にしている事例はありますか?

 国ごとにドローンによる配送エリアの広さや地理環境、業務に従事する生産年齢人口などが違います。日本では、特に、お客さまが配送サービスに求める品質のレベルが高いと思います。そのため、海外のサービスをそのまま持ち込むことが難しく、このプロジェクトは、言わば、私たちの独自プロジェクトです。
 中国ではドローンによる配送サービスが進んでおり、都市部での取り組みも活発ですが、安全やサービスに関する考え方の前提も含め、我が国や当社の狙いとは異なると考えています。ただ、多くのドローンが飛び交う中国社会には、物流の将来面で非常に可能性を感じます。また、アメリカのスタートアップ企業や大手IT企業が開発する技術、アメリカの航空法などは世界的にも影響を与えるので、そうした海外の動向は今後も注視していきたいと思います。

これからのドローン配送の目標をお聞かせください。

 当社で実用化を目指すのはもちろんですが、より大きな目標としては、他社でも多くのドローンによる配送サービスが実用化されて、「あ、ドローンが飛んでいる」とわざわざ空を見上げる人がいなくなることです。郵便局、ポスト、そして当社の社員のように、普段の何気ない日常の中では特に意識されないような「風景の一部」になってはじめて、本当の意味で社会に受け入れられると言えるのではないでしょうか。
 これまで日本は、空というリソースを日常的な交通・配送の手段には使ってきませんでした。それがドローンによって初めて自在に使えるようになったのですから、今後に期待したいと思います。今のプロジェクトをはじめた当初、個人的には、漠然と2025年頃に「レベル4」での飛行ができるようになり、ドローンでの配送が一般的になるのは2030年頃と感じていました。しかし、すでに「レベル4飛行」は可能になっていますから、ドローンでの配送も予想より早く一般化するのではないでしょうか。「日本のどこに住んでいても安心・安全に荷物が届き続けるあたりまえ」をこれからもご提供し続けていくために、これからも一歩ずつ地道に取組を進めていきます。

 インフラなどの点検、農業、災害現場など、活躍の場がどんどん拡大しているドローン。しかし、「結局、ドローンって何ができるの?」という人も少なくないと思います。
 そこで今回は「ドローン」をテーマとし、日本のドローン研究の第一人者である一般財団法人 先端ロボティクス財団 理事長の野波健蔵さんには、ドローンの基礎知識から今後の展開まで、わかりやすく説明していただきました。レベル4飛行の解禁で、いよいよ実用化への期待が高まるドローンによる配送について話してくださったのは、日本郵便株式会社 オペレーション改革部の伊藤康浩さんです。住宅街ではなく、あくまでも山間部のような配達困難地域をドローン活用の場と考える同社の姿勢が印象的でした。公益財団法人 日本ラグビーフットボール協会でアナリストを務める浜野俊平さんは、スポーツにおけるドローンの活用法について教えてくださいました。今年の9月には「ラグビーワールドカップ2023フランス大会」も開催されますから、浜野さんとドローン、そして日本代表チームの活躍が楽しみです。
 次号のテーマは、多様化の波とともに、改めて注目が高まっている「ノーマライゼーション」。障害者の方にとっての日本社会の実情と、真に「バリア」のない世界を実現するための課題について、一緒に考えてみたいと思います。
(Grasp編集部)

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