トリ・アングル INTERVIEW
俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ
vol.20
みんなで守ろう!「命の水」
地球は水の惑星と言われているが、この地球上の水は海水などの塩水がほとんどを占めており、淡水は約2.5%しかない。そのうえ、その大半が南極や北極地域にある氷山や地下水で固定されており、人が容易に利用できる河川や湖沼などの淡水の量は地球上に存在する水量のわずか0.008%程度にすぎない。
この限りある水の確保が、今、危機に瀕している。近年の地球温暖化による気候変動の影響により、世界各地で渇水や洪水などの自然災害が頻発し、水の安定的な供給が見込めないからだ。
人が生きていく上で欠かせない「水」を将来にわたって守り続けていくために今、どのような取り組みが行われ、また、何が求められているのだろうか。
後編
水の大切さと〝共存の仕方〟を発信
公開日:2020/8/14
2020ミス日本
「水の天使」
中村 真優
後編
ミス日本「水の天使」として、上下水道をはじめ、ふだんあまり知る機会のない水循環の現場を国民に分かりやすく伝える役割を担う中村真優さん。高校時代にはドイツに留学して、「日本がいかに水に恵まれているかを痛感した」という。そのような日本の水の豊かさ、大切さを理解してもらうために、どのようなことを心がけているのだろうか。
ドイツ留学が、その後のご自身の活動にどのような影響を与えましたか?
高校生の間に外の世界を見たいと思っていたのですが、特に環境問題に興味があったので、環境大国であるドイツを選びました。
ドイツに着いて、ホストファミリーの家に行ったとき、蛇口をひねったら少し濁った水が出てきました。前日が雨ということもあったのかもしれませんが、その水をホストファミリーの人たちはふつうに飲んでいたのです。きれいな水しか飲む習慣がなかった私にはかなり抵抗がありました。日本のように蛇口をひねればきれいな水が出る、というのは当たり前ではないと気づかされました。
また、日本では多くの地域が軟水なのに対し、ドイツは硬水のため、私の体質には合わなかったようです。髪の質が変わってしまったり、体調を崩しやすくなったりといったことがありました。水というのは人間が単に生きるためだけでなく、健康に生きるために直接的な影響を持つものだと強く感じました。
そして、留学は人生の大きな分岐点でした。それまでは引っ込み思案だったのですが、自分に自信が持てるようになりました。この体験がなければNPO法人を立ち上げたり、ミス日本コンテストに応募することもなかったと思います。
日本の水資源、水環境を守るには水源地の保全などが重要です。国民に理解してもらうためには何が必要だと思いますか?
何よりもまず、水を大切にすることだと思います。日本では浴槽にお湯をためて入浴したり、食器を洗う際には水を出しっぱなしにしがちですが、ドイツではそのようなことはありません。水がもったいないので、シャワーも週2回だけ、といった感じで水を大事にすることを徹底していました。「水の天使」として、私なりのこうした体験も伝えていければ…と思います。
水源地の保全に関しては、そういった場所に気軽に出かけて親しむのもいいのではないでしょうか。ドイツでは休日には山へハイキングに行く人も多いのですが、日本では自然を利用したアクティビティーが少ない気がします。「水の天使」に就任してから、群馬県みなかみ町での利根川支流沿いのトレッキングイベントに参加しましたが、みなかみ町ではゴムボートを使った川でのラフティングも盛んです。こういったイベントに参加することで水の大切さを知れるのは勿論のこと、地域活性化や健康増進にもつながると思います。今はコロナ禍ではありますが、感染対策をしっかりすれば、屋内に比べて制約も少ないかもしれませんし。
【群馬県みなかみ町のトレッキングイベントでの中村さん(右から3人目)】
水は豪雨災害などで命を奪う怖さもありますが、エネルギーなど飲用以外の恩恵ももたらしてくれますね。
「水の天使」として、水の大切さと同時に水との〝共存の仕方〟を訴えていければと思っています。災害については、水を「正しく」恐れることが大事なのではないでしょうか。例えば、短時間豪雨などにより下水などから水があふれ出して浸水被害が起こる「内水氾濫」がありますが、そのリスクがありながら、さまざまな事情で宅地のかさ上げ工事などがまだ、という地域も存在します。そういったリスクのある地域に住む方々には、事前にハザードマップで確認しておくといったことを、水害の時期のみならず啓発できればと考えています。
エネルギー資源としての側面では、日本は石油などの資源には恵まれてはいませんが、水大国といわれるだけあって水は豊富です。将来、石油などの枯渇の懸念もあるなか、エネルギー、動力源としての水という視点は大切で、私も勉強を重ねながら、そういったことを伝えていければと思っています。
【高知県での下水道シンポジウムの際、下水処理場を視察】
若者視点で、限りある水を守っていくうえで必要なことは何だと思いますか?
発信の仕方を広げていく必要があるかな、と感じています。若者を含め、水を大切にしようと主体的に考えている人はそれほど多くはありませんし、大切にしなければならないのは分かっているけれど、方法を知らないということもあるのではないでしょうか。
例えば、フライパンに付いた油は紙でふき取ってから、燃えるごみとして捨てる、そうすれば水の循環にもいいですし、下水管の劣化の防止にもなります。こういった簡単な知識や工夫を知らない人が意外と多いように感じていますので、スマートフォン向けの動画共有コミュニティーなどで紹介したり、ユーチューバーに啓発活動に参加してもらったりすることも重要だと思います。私も水の広報官として、SNSでの発信にも力を入れていきたいです。
最後に読者へのメッセージをお願いします。
水が身近で当たり前にあるのは、上下水道をはじめとする現場で、社会に不可欠なエッセンシャルワーカーの方々による絶え間ない努力の賜物なのです。また、私たちの回りにある水は、世界の水問題と決して無関係ではありません。この機会にぜひ、水について改めて意識してみませんか。(了)
後編