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公開日:2025/6/27

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ウポポイ

アイヌ文化の復興・創造等を目指す

共生社会の実現につながる自然豊かな学びの場

discovery TALK

discovery TALK

国土交通省北海道局総務課
アイヌ政策室
前川課長補佐

 北海道の話題の施設「ウポポイ」について聞きしました。

「アイヌ」は日本列島の北部周辺、とりわけ北海道に先住してきた民族です。「和人」とは異なる言語、文化を持ち、漫画や映画の影響もあってか、近年はその独自の世界観、自然観に高い関心が集まっています。そんなアイヌ民族について深く知ることができる場所が、北海道白老町しらおいちょうにある「民族共生象徴空間 (愛称:ウポポイ)」。主要施設には、「国立アイヌ民族博物館」「国立民族共生公園」「慰霊施設」があります。博物館と公園で約10万㎡という広大な敷地ではどんな体験ができるのか。北海道局総務課アイヌ政策室の前川課長補佐に話を聞きました。

アイヌ語が敷地内の第一言語。貴重な文化の消滅を防ぐ

編集部

そもそも「ウポポイ」とはどういう施設ですか。

前 川
課長補佐

アイヌ文化の復興・創造等のための拠点として、2020年7月にオープンした国立の施設です。アイヌ文化は我が国の貴重な文化のひとつですが、日本の近代化に伴う同化政策などにより、アイヌ語や独自の文化が失われる危機にさらされてきました。2009年7月、内閣官房長官を座長とする「アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会」がアイヌ文化復興・創造等のための「民族共生の象徴となる空間」の整備を提言。それが「ウポポイ」の誕生へとつながりました。国からの委託を受けた公益財団法人アイヌ民族文化財団がウポポイを一体的に運営しており、民族の出自を問わず様々なスタッフが運営に携わっています。

編集部

拠点となる場所があれば、より文化存続の力になりますね。「ウポポイ」というのはとてもユニークな語感ですが、何か由来があるのでしょうか。

前 川
課長補佐

「ウポポイ」はアイヌ語で「(おおぜいで)歌うこと」を意味します。ちなみに、「アイヌ」とはアイヌ語で「人間」を指す言葉です。
実は、私たちが普段使用している言葉の中にもアイヌ語を由来とするものはたくさんあるんですよ。「ラッコ」「トナカイ」は、アイヌ語から日本語に定着した言葉です。北海道の地名にもアイヌ語由来のものは多く、「登別のぼりべつ」は「濁った川」、「知床しれとこ」は「土地の突端部」を意味するアイヌ語がそれぞれ語源と言われています。

編集部

土地の特徴を表しているなど由来を知ると、その地域の地理や歴史も感じられて面白いです。

前 川
課長補佐

ただ、アイヌ語は2009年にはユネスコに消滅危機言語として「極めて深刻」と登録されており、現在、アイヌ語の復興のための取組が行われています。
そこで、ウポポイではアイヌ語を第一言語とし、案内板や展示品の解説など、多言語で表示する箇所ではアイヌ語が最初に来るようにしています。来場者の皆さんをお出迎えする時の言葉も「イランカラㇷ゚テ」(アイヌ語で「こんにちは」など挨拶の言葉)です。また、スタッフはアイヌ語に普段から親しむため、それぞれアイヌ語で「ポンレ」と呼ばれるニックネームを持ち、互いに呼び合っています。

アイヌ民族は文学を口承で伝えてきました。それを「口承文芸」といいます。ウポポイでは「口承文芸」の実演も行っています。

ウポポイの案内板には、第一言語であるアイヌ語のほか日本語、英語、中国語、韓国語などの表記があります。

編集部

ウポポイは「アイヌ文化の復興・創造等の拠点」とのことですが、具体的にどのような活動を行っているのでしょう。

前 川
課長補佐

ウポポイの主な施設は「国立民族共生公園」「国立アイヌ民族博物館」「慰霊施設」の3つです。「国立民族共生公園」ではアイヌ文化を五感で感じられるプログラムが豊富に行われており、サイトのタイムテーブルを確認いただければ、いつどのプログラムが実施されているかが分かります。アイヌ文化に関する展示が行われているのが「国立アイヌ民族博物館」。アイヌの歴史と文化を主題とする日本初の国立博物館であり、日本最北に位置する国立博物館でもあります。「慰霊施設」は、アイヌの人々の遺骨及び付随する副葬品が過去に発掘及び収集され、全国各地の大学において保管されていることに鑑み、関係者の理解及び協力の下で、アイヌの人々への返還を進めるとともに、直ちに返還できない遺骨等についてはウポポイに集約し、アイヌの人々による尊厳ある慰霊の実現を図るとともに、アイヌの人々による受入体制が整うまでの間の適切な管理を行う役割を担っています。

■ウポポイのプログラム例

●アイヌ独自の世界観にひきこまれる、伝統芸能の実演

伝統芸能では歌や踊りだけでなく、独自の文様が美しい衣装も見どころ。

伝統芸能のプログラム例としては、体験交流ホールでの歌や踊りなどの公演があります。さらに、楽器については体験プログラムもあり、普段なかなか触れる機会がないトンコリ(弦楽器)やムックリ(口琴)の演奏に挑戦できます。

●ものづくりの面白さを満喫! 伝統工芸の見学・体験

アイヌの伝統工芸を受け継ぐ方たちの手仕事の技の見事さには思わず見入ってしまうはず。

ウポポイスタッフによる刺繍や木彫等の制作風景を間近で見学でき、体験もOK。コースター、スマホスタンドなど作ったものは持ち帰れるので、来場記念にぴったりです。

●アイヌの生活空間を体感できる伝統的コタン

チセ内部の見学では、家屋の構造や設えから暮らしや文化を知ることができます。

国立民族共生公園には、チセ(家屋)群が再現され、コタン(集落)での暮らしや文化を体感できるエリアもあります。チセ内部を見学できるのはもちろん、「ウポポ(座り歌)」を体験したり、衣装を着用して記念撮影をしたりすることも可能。屋外では歌や踊りの公演のほか、丸木舟の実演なども楽しめます。

●充実の展示でアイヌの歴史と文化について知る、国立アイヌ民族博物館

アイヌの歴史・文化に関する研究、情報の発信拠点。

国立アイヌ民族博物館は、多くの人にアイヌの歴史や文化を伝え、アイヌ文化を未来へとつなげていくことを目的としています。常設の基本展示室では「ことば」「世界」「くらし」「歴史」「しごと」「交流」の6つのテーマについてアイヌ民族の視点から紹介。また、意外な角度からアイヌ文化を深掘りした年数回の企画展示も随時開催していますので、リピーターの方にも楽しんでいただけます。

学生から外国人観光客まで楽しめる「共生の場」へ

編集部

アイヌの人々は動物、植物、道具など、すべての物に魂が宿ると考え、敬っていたそうですね。そういうアイヌ独自の世界観、自然観にウポポイで触れることで、近年注目されている「共生」を実感として理解できるような気がします。

前 川
課長補佐

アイヌ文化を尊重する姿勢を通して、異なる文化習慣を受け入れ、共生することを学ぶ。そんな「共生社会のシンボル」としての役割も、実は、ウポポイには期待されています。
そのため、次代を担う児童生徒の皆さんにもぜひウポポイでアイヌ文化を体験していただきたく、教育旅行の誘致にも力を入れています。 2025年1月には、各地から高校生が参加して「共生社会」について話し合う「ウアイヌコㇿ会議」も開催しました。「ウアイヌコㇿ」とは、アイヌ語で「尊敬しあう」という意味です。他にも、ウポポイのある白老町と連携し、「白老町二十歳を祝う会」の会場として活用していただくなど、地域の方々に受け入れられ愛される場となるように尽力しています。

編集部

北海道といえば、海外の方の来場も多いのではないですか。

前 川
課長補佐

海外の方のウポポイへの来場も、年々増加傾向にあります。ウポポイでは礼拝にも利用できるスペースを用意しています。これは、全国の国営公園に類する施設では初めての試みです。
近隣には登別のぼりべつ温泉や洞爺湖とうやこなどもありますし、海外の方にも国内の方にも、これからは北海道旅行の行先のひとつにウポポイを加えていただけたら嬉しいです。

編集部

新千歳空港からなら鉄道や車で約40分、札幌からなら約1時間と、道外からもアクセスしやすいですし、私もぜひ訪問してみたいです。本日はありがとうございました。

道内外の高校生が一堂に会したウアイヌコㇿ会議。

祈祷や瞑想等の精神活動の場としても利用できるスペースがあります。

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