こんなところに国交省
知る人ぞ知る取組からちょっと意外なお仕事まで
公開日:2024/5/30

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歴史まちづくり
ハードとしての建造物×ソフトとしての文化風習
まちの歴史・伝統をまるごと守り、次代へつなぐ
国土交通省都市局
公園緑地・景観課
古都・歴史文化係長
國吉 さん
歴史が息づくまちづくりの施策についてお聞きしました。
城跡、神社、仏閣などの周辺には、昔の風情を残す城下町や伝統的な行事、習慣、その土地ならではの工芸品や料理などが、今なお人々の生活の中に受け継がれていることが少なくありません。こうした「歴史や伝統が残る環境」をまるごと守り、次代へとつなげていくための施策が「歴史まちづくり」です。その概要や活動内容について、都市局公園緑地・景観課の國吉係長に話をうかがいました。
国指定の文化財だけでなく、その周辺市街地の整備も公的に支援

編集部
歴史や伝統が残る環境を活かしたまちづくりというのは、昔からあったと思うのですが、「歴史まちづくり」という施策が生まれた背景を教えてください。

國吉係長
実は現在、歴史的なまちなみはどんどん失われつつあります。主な理由は維持管理の大変さと、所有者の高齢化です。国指定の文化財であれば補助金などの支援がありますが、そうではない歴史的建造物などには支援は乏しいため、負担の重さからどうしても整備が行き届かず、建造物などが解体されてしまうケースも少なくありません。そこで、国指定の文化財だけでなく、歴史や伝統が残る良好な市街地の環境を維持向上させ後世へ継承していけるようにしようと、2008年に「地域における歴史的風致の維持及び向上に関する法律(歴史まちづくり法)」が施行されました。

編集部
確かに文化財だけポツンと残っても、それだけでは歴史や文化を感じるには限界がありますね。ところで、「歴史的風致」は初めて聞く言葉ですが、どういう意味でしょうか。

國吉係長
歴史や伝統を反映した人々の活動と、その活動の核となる歴史上価値の高い建造物および周辺市街地とが一体となって形成してきた良好な市街地の環境のことです。「人々の活動」というのは、祭りなどの行事や風習、伝統工芸、郷土料理などですね。 「歴史的風致」を活かしたまちづくりを目指す市町村は「歴史的風致維持向上計画」を作成し、国に申請します。文部科学大臣、農林水産大臣、国土交通大臣から認定されれば「歴まち認定都市」となり、まちづくりに対して国からの支援を受けることができるようになります。

編集部
国からの支援というのは、具体的にどのようなサポートを受けることができるのでしょうか。

國吉係長
例えば、歴史的建造物の修理や復元、電線の地中化、空地の緑化など、歴史的なまちなみを維持するための費用が支援対象となります。また、地域活性化につながるような歴史的資産の保存、活用に役立つ都市公園の整備、文化財に新たな価値をプラスする歴史体験プログラムの実施なども支援対象です。例えば、約450年ぶりに復元された大分市(歴まち認定都市)の大友氏館跡庭園や多賀城市(歴まち認定都市)の特別史跡多賀城跡附寺跡も歴史的風致維持向上計画に位置づけられており、庭園や城門等の復元整備に国からの支援も活用されています。

地域活性化につながるような歴史的資産の保存、活用に役立つ都市公園の整備 事例: 大友氏館跡庭園(提供:大分市)

文化財に新たな価値をプラスする歴史体験プログラムの実施事例。2024年に創建1300年を迎える多賀城創建記念事業(古代多賀城元日朝賀の再現、古代多賀城における兵士儀式の再現)(提供:多賀城市)

編集部
思っていた以上にいろいろな取組に対して支援が受けられるのですね。「歴まち認定都市」は他にどんなところがあるのでしょうか。

國吉係長
2024年4月現在、「歴まち認定都市」は95都市です。それぞれの都市で、文化財、農林水産、都市計画など様々な分野の担当者が一丸となって、伝統、文化を生かした歴史まちづくりが行われ、観光面などでプラスの効果が出ているところが多いです。
歴史まちづくりの例
1.広島県尾道市(平成24年6月認定)
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写真は千光寺へと続く坂道(千光寺新道)と石垣のライトアップ (提供:尾道市)
尾道市では、国宝である浄土寺を含む尾道・向島地区などを重点区域に設定。浄土寺方丈の修理事業のほか、旧街道や路地を石畳風に舗装するなど、周辺のまちなみとの調和を図るための整備や寺院等のライトアップ、また外国人観光客のための多言語音声設備の設置などを進めた結果、認定前と比べて外国人を含めた観光客が大幅に増加しました。
2.岐阜県高山市(平成21年1月認定)

写真は無電柱化した旧城下町(提供:高山市)
雄大な自然の中で独自の伝統文化が連綿と受け継がれている高山市。江戸時代の面影を残す旧城下町を重点区域とし、「飛騨高山まちの博物館」の整備、伝統文化の保存・継承などを推進することにより、高山市の歴史文化や景観に対する住民の満足度が向上しています。
3.宮崎県日南市(平成25年11月認定)

写真は宿泊施設に改修された武家屋敷・勝目邸(提供:日南市)
武家屋敷などの城下町のまちなみが残る日南市飫肥地区。この旧城下町を重点区域とし、飫肥地区の空き家の利活用等を民間企業と連携して推進しています。公的サポートだけに頼らない、民間活力を活用したまちづくりの好事例として注目を集めています。
4.石川県金沢市(平成21年1月認定)

写真は長町武家屋敷跡(提供:金沢市)
江戸時代の都市構造や歴史的建造物とともに伝統行事、伝統文化が現在も一体となって残る金沢市。旧城下町を重点区域とし、地元住民が中心となって長町武家屋敷跡周辺地区の景観形成基準を策定するなど、官民が連携して歴史的なまちなみの保全に取り組んでいます。
「歴まちカード」や「ポケストップ」で 新たな観光客獲得へ

國吉係長
歴まち認定都市の多くは、歴史的風致を象徴する写真とその歴史や伝統、歴まちスポットなどを紹介した「歴史まちづくりカード(歴まちカード)」を作成し、無料配布しています。各カード1人1枚で郵送は不可。現地の配布場所を訪れた人だけが手に入れられるところがポイントです。歴まちカードを発行している都市と配布場所をまとめた『全国版歴まちカードパンフレット』がありますので、旅行前などにチェックしていただけたら嬉しいです。

編集部
現地に行かないと手に入らないカードなんて、コレクター魂がくすぐられるサービスですね。

國吉係長
実は、歴まち認定都市の歴史的建造物などは、『Pokémon GO』にも「ポケストップ」(様々な道具が手に入る場所)として登場しているんですよ(2024年4月現在14都市。今後拡大予定)。建造物の説明も表示されますから、多くの方に各地の歴史、伝統について知っていただく良い機会になるのではと期待しています。

『全国版歴まちカードパンフレット』(イメージ)

歴史的建造物を紹介する「ポケストップ」(イメージ)(岡崎市 旧額田郡物産陳列所)(提供:岡崎市)
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編集部
私も歴まち認定都市に出かけて、「ポケストップ」を回してみたいです。本日はありがとうございました。